シャイロック

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2/1/2025, 2:27:03 AM

旅の途中

 私たちはみんな、長い長い旅の途中。1ヶ所
に留まっているにしても、同じことをしているにしても、私たちそのものが少しずつ変わっていくのだから、それが旅なのだ。
 ニュースを見ても、人と話しても、天井を見上げても、心にいくらかずつの変化がある。小さな子だけでなく、大人でも成長していく。
 嘘だと思うなら、数年前の自分と今の自分を比べてみるといい。必ず変化している。
 こうして人は生きていく。少しずつ変わりながら。
 生きることが旅をしていることと考えれば、日々の出来事も自然に受け入れられる。途中でリタイヤなんかしたくない。
 私は私の旅の途中なのだから。

No.95

1/31/2025, 3:28:13 AM

まだ知らない君

 僕はゆりあを愛しているけど、ときどき謎の表情をするから不安だ。
「ゆりあ、愛してるよ」と言えば、とびきりの笑顔で「私もよ、じゅん」と返してくれるし、その顔に嘘はないと思う。
 でも、遠くを見つめるような目をして、小さくため息をついているゆりあは、僕の知らない女性だ。
「ゆりあ、何か悩みでもあるの」
「え?無いわよ。なんでそんなこと聞くの?」
「君が、別の人に見えるぐらい、暗い表情をする時があるんだ」
「そうなの?でも考え過ぎよ。な~んにも無いわ。じゅんは心配性なのね」
 悩みがあるなら聞こうと思ったが、何にもないと言われてしまったら、それ以上聞きようがない。もしかしたら彼女は、特別な教育を受けた凄腕スパイで、一部上場の僕の会社のデータを根こそぎ持っていこうとしている。とか、もしかしたら彼女は、ベテランの結婚詐欺師で、僕のほかにもたくさんの男を手玉に取ってる。とか、もしかしたら彼女は、お父さんの借金が億単位あって、それを返すために昼夜問わず働いて疲れが限界に来ている。とか、いろいろ想像してみるけど、僕の想像力じゃ限界がある。
 人が、相手のすべてを理解できるなんてことは無い。親子だって、知らないことも有るだろう。結局、何か有るにしても無いにしても、僕はゆりあを愛しているんだから、まだ知らない君が出てきても、それも含めて丸ごと愛することにする。
 愛してるよ、ゆりあ!

No.94
 

1/30/2025, 3:36:53 AM

日陰

 夏は日陰を選んでは歩き、冬は日陰を避けて日向を歩く。夏は日向だと死にそうになるし
冬は日陰だと非常に寒く、お日さまの実力を痛感するのだ。人は勝手なものだね。
 日の当たる所は明るいけど、夏みたいに日陰がいい時もあるから、日陰も日向も必要なんだ。
 当たり前だけど、日向と日陰は裏腹というか、一歩踏み込んだら日向に入ったり日陰に入ったりするんだから、今は日が当たらなくても、必ず日がさしてくるはずだよ。
 そんなに自分を卑下せずに「さぁ行くぞ!」と、一歩踏み出してみようよ。
No.93

1/29/2025, 3:28:18 AM

帽子かぶって

 東北区で火事の通報が入った。さぁ今日も行くぞ!
 俺は、町の消防団の一員だ。
 どんな困難が待っているか分からないが、普段、仕事の合間に訓練もしている。だから、何があってもだいじょうぶだ!
 制服を着て、詳細情報を得て、消防団の車庫に走る。
 帽子は抱えて行き、消防車に乗るときにかぶる。すると、仕事からの切替が完全に出来て、気合が入る。
 この帽子は、俺にとってスイッチみたいなもんだ。

No.92

1/28/2025, 3:30:58 AM

小さな勇気

 わたしだって、でんわかけられるもん。でも、なんばんかわからない。110と119ならしってるけど、どっち?
 でもはやくしなくちゃ。ママとパパがかえってきちゃう。どっちでもいいから、かけちゃおう。
 「もしもし、事件ですか?事故ですか?」
「どっちかわかんない」
「お子さんですね。何年生ですか?お名前は?」
「あゆみちゃんだけど、なんねんせいでもないの」
「じゃね、あゆみちゃんいくつ?」
「5さい」
「5才ですね?それでどうしたの?」
「パパとママがかえってこないうちに、なの。ママが、おでんわわすれていったからかけてるの」
「じゃ急ごうね。何があったか、話してくれる?」
「いつも、おしいれにいれられていて、ときどきたたかれるの。ごはんもすこしでおなかへってるの」
「そうなの。GPSで場所わかるから、いまから行くからね。必ず行くから待っててね」
「はやくきてね」
 
 パパと呼んでいたのはママの内縁の夫で、連れ子のあゆみちゃんが邪魔だったのか、単にイライラのはけ口だったのかは分からないが、日常的に暴力を振るって、罵声を浴びせていたらしい。食事も最低限で、5才児の平均体重の三分のニぐらいだった。顔を見るとイラっとするからという理由で、パパが居る間は押し入れに閉じ込められていた。でも、パパの勝手な都合で引っ張り出しては殴られたり蹴られたりした
。驚いたことに、ママも殴っていたらしい。身体中にアザや擦り傷やコブもあった。
 大人にとっては、電話をかけるなんて小さな勇気だが、あゆみちゃんの大きな勇気が、彼女を救った。
 (11/8「あなたとわたし」の半年後)
No.91

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