小さな勇気
わたしだって、でんわかけられるもん。でも、なんばんかわからない。110と119ならしってるけど、どっち?
でもはやくしなくちゃ。ママとパパがかえってきちゃう。どっちでもいいから、かけちゃおう。
「もしもし、事件ですか?事故ですか?」
「どっちかわかんない」
「お子さんですね。何年生ですか?お名前は?」
「あゆみちゃんだけど、なんねんせいでもないの」
「じゃね、あゆみちゃんいくつ?」
「5さい」
「5才ですね?それでどうしたの?」
「パパとママがかえってこないうちに、なの。ママが、おでんわわすれていったからかけてるの」
「じゃ急ごうね。何があったか、話してくれる?」
「いつも、おしいれにいれられていて、ときどきたたかれるの。ごはんもすこしでおなかへってるの」
「そうなの。GPSで場所わかるから、いまから行くからね。必ず行くから待っててね」
「はやくきてね」
パパと呼んでいたのはママの内縁の夫で、連れ子のあゆみちゃんが邪魔だったのか、単にイライラのはけ口だったのかは分からないが、日常的に暴力を振るって、罵声を浴びせていたらしい。食事も最低限で、5才児の平均体重の三分のニぐらいだった。顔を見るとイラっとするからという理由で、パパが居る間は押し入れに閉じ込められていた。でも、パパの勝手な都合で引っ張り出しては殴られたり蹴られたりした
。驚いたことに、ママも殴っていたらしい。身体中にアザや擦り傷やコブもあった。
大人にとっては、電話をかけるなんて小さな勇気だが、あゆみちゃんの大きな勇気が、彼女を救った。
(11/8「あなたとわたし」の半年後)
No.91
1/28/2025, 3:30:58 AM