まだ知らない君
僕はゆりあを愛しているけど、ときどき謎の表情をするから不安だ。
「ゆりあ、愛してるよ」と言えば、とびきりの笑顔で「私もよ、じゅん」と返してくれるし、その顔に嘘はないと思う。
でも、遠くを見つめるような目をして、小さくため息をついているゆりあは、僕の知らない女性だ。
「ゆりあ、何か悩みでもあるの」
「え?無いわよ。なんでそんなこと聞くの?」
「君が、別の人に見えるぐらい、暗い表情をする時があるんだ」
「そうなの?でも考え過ぎよ。な~んにも無いわ。じゅんは心配性なのね」
悩みがあるなら聞こうと思ったが、何にもないと言われてしまったら、それ以上聞きようがない。もしかしたら彼女は、特別な教育を受けた凄腕スパイで、一部上場の僕の会社のデータを根こそぎ持っていこうとしている。とか、もしかしたら彼女は、ベテランの結婚詐欺師で、僕のほかにもたくさんの男を手玉に取ってる。とか、もしかしたら彼女は、お父さんの借金が億単位あって、それを返すために昼夜問わず働いて疲れが限界に来ている。とか、いろいろ想像してみるけど、僕の想像力じゃ限界がある。
人が、相手のすべてを理解できるなんてことは無い。親子だって、知らないことも有るだろう。結局、何か有るにしても無いにしても、僕はゆりあを愛しているんだから、まだ知らない君が出てきても、それも含めて丸ごと愛することにする。
愛してるよ、ゆりあ!
No.94
1/31/2025, 3:28:13 AM