シャイロック

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12/25/2024, 3:29:18 AM

イブの夜

 続々と人が集まってくる。親子連れもいれば、お年寄り同士で手を繋ぎ支え合ってやって来るご夫婦らしき2人もいる。どういうわけか、子どもが1人で来たこともあった。
 この巨大な建物の中が、人で埋まってきて、ざわざわがやがやと声が反響してうるさい。
 私は1人で来たので話し相手も居なくて、座ったままボォーっと、どんどん入ってくる人々を見ていた。
 中に目を転じると、すすり泣いている人もいる。不安に駆られて、うろうろと狭い範囲で動き回っている人もいた。諦めきって、眠っている人もいる。
 腕章を付けた人が、大きな声で何か言っているが、これだけの人が居て、小声とは言えそれぞれが何か話しているので聞こえない。
 まぁいいか、なるようにしかならない。
 12時になる30分前、大きな扉が悲鳴のような音をたてて閉められようとしている。若者が1人、飛び込んできた。セーフ!というようなジェスチャーをしている。そうだった、そんな告知があったっけ。もう時間なんだ。
 人々が静かにどよめいた。私は何故か、焦りも悲しみも無かった。しょうがないことと認識し、諦めている。
 この巨大なシェルターで、どの程度生き残るのか。これからどうなるのか、誰も知らない。今日は地球崩壊イブの夜・・・。

12/24/2024, 3:45:42 AM

プレゼント

 お誕生日やクリスマス、敬老の日、何かをプレゼントすると、必ず文句を言う母だった。
「こんな色、私に似合わないよ」「このデザインは派手だねぇ」「今年は◯◯が欲しかったのに」私も妹もいつものことだから、あーはいはい、とりあえず渡したよ。的な感じで取り合わない。
 でも、初めて自分のお小遣いでプレゼントした手袋にケチをつけられたときは、大きなショックだった。その後も、何を渡してもそうだったので、こう言う人なんだ、と思うことにしたけど。
 あれは何なんだろう?照れなのか?喜んで受け取れないのは、変なプライドだろうか?
 私なら、金額や好みに拘らず、相手が自分を想定して、いろいろ見て考え選んでくれたプレゼントだから、とにかく嬉しい。喜ぶ。
 そういう風に、プラスの感情を出せないのは悲しいことだと思う。だから母にも、娘が選んだプレゼント、演技でも良いから喜んでほしかった。

12/23/2024, 3:19:29 AM

ゆずの香り

 香水、入浴剤、ハンドクリーム、芳香剤、制汗スプレー、およそ、ゆずの香りを謳っているモノで、本当にゆずの香りがした試しがない。(ポン酢やドレッシングなど、食べ物関係は違う。本当のゆず果汁が入っているからだ)
 バラやムスクは、けっこう近いかなと思うが、してみると、ゆずの香りの再現は難しいのだろう。シトラスと謳っているものは、なんとなく柑橘系かなと思うのだが、柚子は違うんだなぁ。
 バラの香りを再現するために、調香師はほんのほんの少しだが、うんちの香を混ぜるそうだ。香りの再現はそんなデリケートなものなんだね。
 もしかしたら、香り界隈では、ゆずの再現はノーベル賞レベルだったりして。

12/22/2024, 6:59:01 AM

大空 

 大空を飛べたら、どんなにステキだろうと、小さい頃の私は思っていた。
 でも、大きくなった今、とんでもないことに気がついて、その夢は潰えた。私は極端な高所恐怖症だ。椅子の上にだって上がると足がすくむ。
 この年になって、一度も海外に行ったことがないのは、そのせいだ。飛行機は地に足が着いていないから怖い。
 因みに、水の上とは言え、船も同じだ、地面にくっついていない。
 だから、私の大空のイメージは、下から見上げるいつもの空だ。見晴らしのいいところから見れば、充分大空だが、いつも眺めている空は、建物や樹木、街灯、高架に遮られて、大きく見えたとしても中空(ちゅうぞら)だ。
 でも、地球を覆っているこの大空は、どこの国にも繋がっていると思うと、なんだか嬉しくなる。「私は地球の一員なんだなぁ」って思うから!

12/21/2024, 7:09:27 AM

ベルの音

 ドアに取り付けたカウベルが鳴った。チラッと入り口の方を見ても誰も居ない。深夜2時のスナック、流石に今から来る客は滅多にいない。
 私は洗ったグラスを拭きながら、形ばかり「いらっしゃいませ」と言ってみた。すると、
「マティーニを」と、かすかな声が聞こえた。
 ああ、いつもの人だ。と、私は思った。月に一度ほど、こうしてやってくる。
私はそっとマティーニのグラスをカウンターに置いた。「お待たせしました」
 それだけだ。
 マティーニは減ることがなくそのままずっとあるし、それ以後、彼女の声を聞くことはない。
 なにか言いたくて、この店に来るのだろうか?イケメンでもない私が目当てではないだろうし、他の客目当てならもう少し早く来るだろう。
 それでも今夜は特別だから、私はつぶやくように「メリー・クリスマス」と言った。
 カウベルがまた鳴った。今まで、帰りのベルの音はしたことがない。満足してくれたのだろうか。
 私はもう一度、さっきより少し大きな声で言った。
「メリー・クリスマス」


 

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