シャイロック

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ベルの音

 ドアに取り付けたカウベルが鳴った。チラッと入り口の方を見ても誰も居ない。深夜2時のスナック、流石に今から来る客は滅多にいない。
 私は洗ったグラスを拭きながら、形ばかり「いらっしゃいませ」と言ってみた。すると、
「マティーニを」と、かすかな声が聞こえた。
 ああ、いつもの人だ。と、私は思った。月に一度ほど、こうしてやってくる。
私はそっとマティーニのグラスをカウンターに置いた。「お待たせしました」
 それだけだ。
 マティーニは減ることがなくそのままずっとあるし、それ以後、彼女の声を聞くことはない。
 なにか言いたくて、この店に来るのだろうか?イケメンでもない私が目当てではないだろうし、他の客目当てならもう少し早く来るだろう。
 それでも今夜は特別だから、私はつぶやくように「メリー・クリスマス」と言った。
 カウベルがまた鳴った。今まで、帰りのベルの音はしたことがない。満足してくれたのだろうか。
 私はもう一度、さっきより少し大きな声で言った。
「メリー・クリスマス」


 

12/21/2024, 7:09:27 AM