寂しさ
百人一首の1つに、良暹法師の
「寂しさに宿を立ち出でて眺むれば何処も同じ秋の夕暮れ」というのがあります。
一人ぐらしで、なんとも寂しくて外に出てみたら、やっぱりどこをみても秋の夕暮れの寂しい風景だ、という意味です。宿って、旅の宿ではなく、自分の住まいのことのようです。
秋の夕暮れの寂しさというのは、平安時代はもっともっと深かったと思います。
街の灯りは無いし、自宅の門灯、玄関灯も付いていません。月もまだ出ていないと、「これから暗くなってしまうんだな」と、黄昏の景色を眺めたことでしょう。
私も含めて、現代に生きていると、黄昏時の気配にも気が付かなかったりするときがあります。燈明の揺れる光ではなく、蛍光灯やLEDの灯りが、スイッチひとつでパッと点きますから。
そういう意味でも、古い時代のわび・さびに、半分は憧れが有ります。でも、明るい現代で良かった!
冬は一緒に
北風が吹く冬の日は、コートの襟元や袖口から冷気が入り、思わず襟をかきあわせる。ポケットに手を突っ込む。サラリーマン1年生のオレには、暖かいコートを買う金もなく、薄手のダウンジャンパーだからなおさらだ。
今年の春に出会った彼女から、さっき別れを告げられて、さらに寒さが身に染みる。
「冬は一緒にスノボー行こうね」と約束していたのに、他に好きな人が出来たんだってさ。
あー約束なんてあてになんねえな。
その他にも「アイスクリームは、こたつの中でぬくぬくしながら食べるとおいしいよね」とか「六本木のイルミネーション観に行こうね」とか、冬になったら一緒にやろうねと、小さな予定もいっぱいあったのになぁ。
そんなもんなんだなぁ、女の約束なんてあてになんねぇな。あ〜ぁ、嫌になるなぁ。
とりとめもない話
公園のママ友として知り合い、今でもグループで付き合っている人たちがいる。上の子がまだおむつの頃からだから、もう30年以上になる。
月に1度程度、女子会をするのだが(全員60代で、はい、女子会とは呼べません)その女子会(!)では、本当にとりとめのない話ばかり。それぞれの子どもの近況とか、夫の病気とか、自分の仕事や親のこととか、ご近所の話とか。子どもが小さなときは、みんなで健康相談みたいになったこともある。
それを乗り越えたら、今はなおさらとりとめがない。
「うちの〇〇仕事辞めちゃったのよ」
「えっ、本当?今何してるの」
「うちにいるわよ。お金持ちのマダム相手のお仕事だったから、けっこうもらってたのに」
「あらもったいない!そう言えばAくん覚えてる?」
「覚えてるわよ、うちの娘に噛みついて子!」
「そう、そのAくんが、警察に捕まったんだって」
「誰かに噛みついたの?」
「そんなわけないじゃん、それがね。。。」
誰か一人の話題に乗っているように見えながら、自分の語りたい話に持って行く。聞きたい話があれば、
「それで〇〇ちゃん、これからどんな仕事したいって?」
と、引き戻す。
だが、それでもみんな楽しくて、集まる日を心待ちにしている。ママ友同士だが、子どもが学校に行っていた時代も、成績や進路は関係なく、言いたいことを言い合って面白かった。
意外にキツい言い方をしても、心に黒いモノを持っていないので、笑って流せる。みんなでわいわい話して食べて飲んで、大笑いして、ストレス解消になる。
こんなに良い友人たちと、30歳を有に過ぎてから出会えるとは思わなかった。これからも大切にしたい。
風邪
久しぶりに会社を休んだ。熱も有るしひどい頭痛で、市販の鎮痛解熱剤と風邪薬で、なんとかごまかして眠っていた。
何度も目覚めてはまた寝たが、ちょうど深く眠っていた時だった。ふいにインターホンが鳴った。そう言えば、安アパートの階段を登ってくる音がしたのを、うつつで聞いたような気がする。「誰だよー具合悪いのに!」とモニターをみると、宅配便の制服を着ている人が映っていた。
再配達は気の毒だなと思った俺は、インターホンに応じた。「はい」短く答えると、
「あー良かった!」と喜んでいる。
「◯◯運輸です。冷凍便です」
「冷凍?」「はい、〇〇市からです」
あー母か!と思ったが、寒気がしていて外に出る勇気も元気も無い。
「すみません。風邪で出られないので、ドアの前に置いていってもらっていいですか?」
「あ、は〜い、畏まりました」
程なくして、今度は鉄の階段を降りていく音がした。
誰かに持ち去られても嫌なので、外出用のジャンパーを羽織ってドアを開けた。そこそこの大きさの段ボールが置いてあった。やっぱり母だ。箱を持ち上げたら、宅配の伝票になにかボールペンで書いてある。
「おだいじに!」
下手な字の走り書きだが、なんだか嬉しくて涙が出た。風邪で、心細くなっていたのかな。
雪を待つ
寒いのは嫌い。すごく嫌い。だけど雪が降る光景は美しいと思う。
雪深い街で暮らすのは無理だが、年に1度か2度ぐらいなら、降ってくるといいなと思ってしまう。庭の樹木や、二階の窓から見える、家々の屋根に積もっているのを見ると、掛け値無しに美しいと思う。降る雪には詩が有る。物語が有る。
雪国の人に叱られそうな贅沢な話だが、敢えて言う。一冬に1度か2度の雪を待ちたい。