一筋の光
子ども時代に育った家は、ボロボロの木造で、サッシなどもちろん無く、夕方になるとガタピシと雨戸を閉めた。
ある朝、雨戸の隙間から一筋の光が差し込んでいたのだが、その光に、埃が細かくたくさん見えた。キラキラしてある意味美しいが、なんだかゾッとした。
普通の家に、当たり前にある埃なのだろう。でも、光が当たったせいで、改めて見せつけられると引くものである。タレントさんが、売れて光が当たったら過去の出来事を暴かれることもある。
光が当たる、差し込むというのは、良いイメージだけど、そんなこともある。
哀愁を誘う
気がつくと、枯葉が散り敷く公園の脇の道を歩いていた。冷たい雨が降っていて、枯葉にも浸透し、足が惨めになるほど冷たかった。
なに?あれ?冗談?
いや、彼は本気だった。
別れてほしいと。
何故?5年も付き合っていて、ちょうどいい距離感でうまく言っていると思っていた。ううん、思い込んでいた。
だけど今日、別れてほしいと。
ひどい喧嘩とか浮気発覚とか、分かりやすい原因だったら、予測がつくから心の準備も出来た。でも、何も無かった・・・と思う。
同じフレーズが頭の中をグルグルしていて、他に何も考えられない。どうして?どうして?どうして?
神様お願い。
今にも彼からLINEが来て、あれは冗談だよと、スタンプの1つもつけて笑わせて下さい。お願いです。神様。
オマージュ「恋人よ」
「鏡の中の自分」
ねぇ、鏡の中の自分って、一番嘘つきよね。
ドレッサーで髪を梳きながら妻が言う。
なに?朝から哲学?
ベッドで半身起こしながら僕が言う。まだ、起きがけだから声が低い。
だって、もともと鏡って反対に映るよね。その上、鏡に向かうと、無意識にキリッと口元引き締めたりしない?目をそらすと自分が見えないから、まっすぐ見つめるしね。
うーん、僕はあんまり鏡見ないなぁ。歯磨きの時や風呂のあと、洗面所の鏡は見るけど、なんにも感じてないなぁ。
男性と女性では違うのかしら。
・・・ほら、やっぱり
ん?
今ね、アホな顔してみようと思ったんだけど、どうしても出来ないのよ。
どれどれ?
僕は、ベッドから抜け出し、妻の隣から鏡を覗き込んだ。
出来るぞ
思いっきり変顔をしてみせた。
妻は笑い転げて、
やっぱり男性と女性では違うのよ。
小首をかしげていた妻が、
そうか!
と、大きめの声をあげた。
あのね、私はあなたに、私の中で一番きれいな自分を見せたいといつも思っているから、比較的きれいに見える顔を無意識に模索してるのよ。
そうか、偉いぞ。
妻の頭を撫でながら、
でもな、鏡を見るのもいいけど、僕を見てくれよ。女優みたいに、すごくきれいじゃなくても、僕に見せてくれる君の明るい笑顔が好きなんだ。
「眠りにつく前に」
毎日いろんなことがあって、せんべい布団にくるまったとたんに、あーんなことやこーんなことを思い出して、毎晩走馬灯だぜ。
俺の薄っぺらい思考経路とバカな頭じゃ、反省も向上心も無いから、だだもう思い出しては忘れる。肉体労働で体は疲れてるから、それが走馬灯のように一巡り、いや、一巡りしないうちに眠りにつくからね。
これをジュージツしてるって言うのかなぁ。
「永遠に」
幸せ過ぎて怖い、という言葉があるけど、よく分かる。
自分の中でマックスの幸福感の中で思うのは、もうそれを失った時の気持ち。
こんなにも嬉しい楽しい幸せな気持ちを味わいながら、もしもこれが消えたら?と、恐怖に打ち震える。それが同時進行する複雑な心。
この幸せが何年続くか、何日続くか、あるいは何時間なのか。幸福感の根底には、いつか終わりを迎えるという結末が見える。
だからこそ人は、この幸せをどうか永遠にと願う。