「理想郷」
花がたくさん咲いている。
お日様の光が全身に当たって暖かい。
何故か僕は全裸だった。ここに誰か現れたら、警察に捕まる!とも思ったが、他の人が来ることはまったく想像できないほど、見渡す限りの緑の丘に、色とりどりの花が咲いていて、うっとりするほど気分が良かった。
僕は、ゆっくりと散策した。花を愛でて、時々聞こえる鳥の声に耳を澄ませ、ゆっくりゆっくり歩いた。
僕は、ずっと痛みに攻め苛まれていた。
だけど今はどこも痛くない。それだけでもストレスがなくて、なんて自由で、なんて気持ちが良いんだ!
これが理想郷というものなんだな。
これから何が待っているかは知らないけど、生まれてここまでで、今が一番良いから、何でも出来るような気がする。
さて川を渡ろうか。
「懐かしいこと」
人生80年を過ぎると、昔の細かいことは、だいたい忘れてしまっています。兄弟や友人と「あのとき、こうだったよね」という話が出て、あぁそんなこともあったな。と思う程度で、下手をすると、そんなことあったっけ?と、曖昧な返事をしてしまいます。
そのくらいですから、いま懐かしく思うことは、たぶん非常に胸に残っていることなのでしょう。
それがねぇ、無いです。
嫌なことは忘れるようにしているし、実際忘れます。良いことは、少しは覚えておきたいけど忘れます。
だんだんと、昨日のことも忘れてしまうのでしょう。
あれ?今日のお昼ご飯、何を食べたっけ???
「もう一つの物語」
私のどこがいけないのよ!
ママの言う通りにしていただけじゃないの!
ママが、私たちは着飾って王子様に見初められれば、それだけでいいのよ、と言うから着飾ってパーティに行ってたし、ママがやらせろって言うから、お掃除も食事の支度も妹にやらせて、ママがぶてと言うからぶって。
見初められるためだったら、靴に入るように私は踵、お姉様はつま先をぶった切ってまで頑張ったのに、痛かったのに、それでも入らずに悲しかったのに、牢屋に入れられてしまった。
ここは寒いし汚いし!きれいな服を着て暖かいお部屋でひらひら歩き回って、美味しいモノを食べていたのに、今の状態ってなに???
まるでこの間までの妹じゃないの。食事も洋服も!
ママが言ったから、あーママが言ったとおりにしたのに。