「鏡の中の自分」
ねぇ、鏡の中の自分って、一番嘘つきよね。
ドレッサーで髪を梳きながら妻が言う。
なに?朝から哲学?
ベッドで半身起こしながら僕が言う。まだ、起きがけだから声が低い。
だって、もともと鏡って反対に映るよね。その上、鏡に向かうと、無意識にキリッと口元引き締めたりしない?目をそらすと自分が見えないから、まっすぐ見つめるしね。
うーん、僕はあんまり鏡見ないなぁ。歯磨きの時や風呂のあと、洗面所の鏡は見るけど、なんにも感じてないなぁ。
男性と女性では違うのかしら。
・・・ほら、やっぱり
ん?
今ね、アホな顔してみようと思ったんだけど、どうしても出来ないのよ。
どれどれ?
僕は、ベッドから抜け出し、妻の隣から鏡を覗き込んだ。
出来るぞ
思いっきり変顔をしてみせた。
妻は笑い転げて、
やっぱり男性と女性では違うのよ。
小首をかしげていた妻が、
そうか!
と、大きめの声をあげた。
あのね、私はあなたに、私の中で一番きれいな自分を見せたいといつも思っているから、比較的きれいに見える顔を無意識に模索してるのよ。
そうか、偉いぞ。
妻の頭を撫でながら、
でもな、鏡を見るのもいいけど、僕を見てくれよ。女優みたいに、すごくきれいじゃなくても、僕に見せてくれる君の明るい笑顔が好きなんだ。
11/4/2024, 2:03:43 AM