時を告げる。
時計塔。
私は12時に帰らないと、
魔法が解けてしまう。
サンドリヨンは焦る。
王子を置いて
走り去る。
階段を急いで降りる。
王子は止めようとした。
その時
「___あっ…!」
足を踏み外す。
勢いよく落ちてゆく。
王子が支えようともしたけど
転げゆくサンドリヨンを止めることは出来ない。
でもサンドリヨンは見ていた。
王子が、私の足をわざと蹴落としたのを。
「__貴方の罪を忘れはしないわ。」
王子を睨みつける。
にやっと、笑う王子。
「_へぇ。」
きっと、彼は私を殺す気だったのだわ。
彼は、誰ともまだ結婚なんてしたくない、
って言ってたもの。
お姉様とお母様には悪いけど、
先にいかせてもらうね。
そう思って目をつぶって意識を手放した。
起きたら
ふかふかの、ベッド。
やぁ、お目覚めかい?
灰かぶり姫の、サンドリヨン。
隣から声が降ってきた。
私の足は動かない。
それどころか、足がない。
「僕から離れる足をなくてあげたのさ。
僕って、優しいだろう?」
でも、大丈夫。
これからは僕がお世話してあげるからね。
全身に寒気が走った。この男、狂ってる…!
逃げようとした。身体は動いてくれない。
金属が私の身体を縛り付けていた。
君が、不幸になって、それから幸せになる。
それだけじゃ、つまらないだろう…?
僕が、スパイスをかけてあげるよ。
王子は狂ったように笑う。
妹の作ってくれた貝殻のアクセサリー。
きれいなピンク、
海みたいな青、
ぴかぴかな白、
どれも宝石みたいだった。
大好きな、妹から貰った大切なもの。
どこに行くにも付けてった。
小学校、
いつもはだめって言われてるけど、
今日ぐらいはいいよね…?
私は貝殻のアクセサリーを持ってった。
学校についた。
みんなからきれい、
すごい
ってたくさんほめてもらった。
うれしかった。
先生が教室に入ってきた。
いつも厳しいけど、
大好きな先生。
「せんせい!見て!」
そうやって見せようとした時。
私を睨んで、
「貸しなさい。」
って。
見たいのかなって思って、
貸したの。
そしたらね。
ぐちゃぐちゃになっちゃった。
貝殻のアクセサリー。
先生が、足で踏みつけたの。
なんで。
なんでそんなことするの…?
私の顔もぐちゃぐちゃ。
涙で前が見えない。
「あなたが悪いのよ。こんなふざけたもの持ってきたから。」
私が悪いの?
持ってきたのがだめだったとしても、
壊さなくて、いいじゃん。
…じゃあ、今からすることは、先生が悪いから。
いいんだ。
私は、今日の工作で使うカッターを取りだした。
先生は驚いてたけど、
もういい。
私の大事を壊したから。
先生の大事も壊してあげる。
あは、あはは。
先生も、ぐちゃぐちゃ。
悲鳴でぐちゃぐちゃ。
顔がぐちゃぐちゃ。
みんなの顔もぐちゃぐちゃ。
全部全部全部全部。
ぐっちゃぐちゃ。
先生、喋らなくなった。
他の先生が来た。
私を連れてく。
待って、貝殻のアクセサリーだけ。
もう戻らないかもしれないけど。
お願い。お願い。お願い。
私、なんてことをしてしまったんだろう。
あなたのやることなすこと全てが目につく。
これはきっと恋だけど、
それでいて、恨みだ。
あなたが私の心を奪ったその日から。
俺には才能がある。
なんの才能かって?
絵の才能さ!
昔から賞を取り続けてるし、
正直、俺は天才だと思う。
テレビに取り上げられたぐらい俺は絵が上手くて、
そこらのやつとは違う。
おまけにそこそこ顔もいい。
学校では、何をしなくても人が周りによってくる。
俺は所謂陽キャってやつだろう。
俺がひょうきんなことを喋れば皆笑い、
俺が悲しいことを喋れば皆泣く。
あぁ、なんと素晴らしい世界だ!
学校は俺の帝国なのだ!
そう、本気で思ってた。
だが、ある日、俺の帝国は終わりを迎えた。
転校生がやってきた。
転校生は男だった。
そいつは何でもちちょいのちょいでやってのけるようなやつだった。
しかも、顔がその辺の下手なアイドルよりもいい。
しかも、面白い。
しかも優しい。
俺と違って。
だから、その日を境に、
俺より、そいつのが人気になった。
取り巻きも、そいつのとこにいった。
でも、絵、だけは。絵、だけは。
負けないって。
思ってた。
そいつは、俺より、絵が上手かった。
俺みたいな上辺だけの絵とは違う。
ちゃんと作り込まれて、想いが詰め込まれた、
宝石箱みたいな、それでいて、繊細な絵。
綺麗だった。
ある日、そいつに聞いたんだ。
「お前。絵、大会とかに出さねぇのかよ…。」
そいつは答えた。
「僕なんて、君と比べたら、まだまだだよ。」
って。笑顔で。
そいつの手は、
努力の滲んだ手を、してた。
そいつの作る世界は、どれだけ、
俺を壊したら気が済むんだ。
やめてくれ。
お願いだから、
俺から。
何も、
奪わないで…。
心の灯火が、そいつのひと吹きで消された。
俺の絶望に満ちた表情を見て、
そいつは、
俺に、口付けをした。
「かわいいね」
って。
【赤いスミレ】
あたし、いつもLINEはすぐ見るの。
だって相手を待たせて
不快な気持ちにするのは嫌だもん。
だからいつも即レス。
もはや脅迫観念的な?
そんなある日、
道路で信号が変わるのを待ってたの。
ピコンっ。
って。
お母さんからのLINEが届いたの。
私はLINEをすぐ見た。
「見てください。お花が綺麗でした。」
写真が添えられてた。
正直どうでもいいと言っちゃえば、
どうでもいいLINE。
でも、そのお花が、
私の大好きなスミレだったの。
しかも、その中でも特に好きな、赤いスミレ。
あたしの名前と同じスミレ。
ふふっ、
と笑う。
LINEを返そうとした。
「きれいだね」って。
でも周りの人が進みだしたの。
だからスマホをしまいながら歩いた__
体に衝撃が走る。
悲鳴が響く。
周りには、血。血。血。
近くに私の血で染まったのか、もともとそうだったのわからない車。あたしも赤で染まる。
痛い、痛い痛いいたいいたいいたい痛い。
ピコンっ。
また通知が鳴る。
無意識に、割れたスマホを、取り出す。
でも、LINEを開けるほど、あたしは、
ちからがのこってなかった。
開けないLINE。
おかあさん。
そうボヤいて、あたしのいしきはなくなる。