いよいよ明日は試験本番。
第一志望の大学に受かるために、この一年、勉強漬けの毎日だった。
…さすがに1日10時間はやり過ぎだったかなと思う。
模試もA判定だったし大丈夫だと思うけど、何事も油断は禁物。
運を味方に付けるためにできる限りのことはした。
学業成就の神社で神頼み。
願いが叶うというお寺で合格祈願。
流れ星に3回願いを唱えたし、
ついでに先週の満月にもお願いしておいた。
…いろいろな神様に同じ願いを掛けると神様同士が喧嘩して叶わない、というのを後から聞いて少し焦ったけど。
今日は早く寝て明日に備えよう!
頑張るぞ〜〜
-----
そうして、気合を入れ過ぎて興奮で眠れなくなった彼女は、翌朝寝坊するのだった。
#月に願いを
自分の感情で天気が変わることを教えてもらったのは4歳の頃だった。
楽しいや嬉しいと感じると晴れて、悲しみや怒りを感じると雨が降る。
知っているのは家族だけ。
教えてもらったときに、誰にも言わないように母にきつく言い含められた。
今日は吹奏楽部の夏合宿で山の家に来ている。
秋の大会に向けて、これから5日間、みんなで練習に取り組む。
「夏合宿は雨が降るね」
「天気がよかったら、外で練習できて気持ち良いのに…」
みんな口々に残念がっているのを見ると、申し訳けない気持ちでいっぱいになる。
「あ、見て。先輩たち、相変わらず仲が良いね!」
友達の視線の先には、吹奏楽部の部長、副部長がスケジュール表を覗き込みながら打ち合わせしている。
時々、楽しげな笑い声が混じる。
二人が付き合っているのを知ったのは、去年の夏合宿の直前だった。
もっと早く教えて欲しかった、と何度も思った。
だけど、知っていたとしても、好きになっていたかもしれない。
失恋することが分かっていても。
この気持の止め方が分からない。
降り続ける雨のように。
#降り止まない雨
どうやら、どこかの未来でタイムマシンが実用化されるらしい。
そう気づいたのはいろいろな所で自分らしき人影を見るようになったことが切っ掛けだった。
ドッペルゲンガーかと思って焦ったが―出会ったら死んでしまうらしいので―、人影の年齢や服装・雰囲気がバラバラで、感覚的に「自分自身だ」と感じる程度しか似ていないから違うのだろう。
ドッペルゲンガーでは無いのなら、この世界には平行世界が存在する、と考えないと説明が付かないくらいに人影の様子は自分と違う。
中には向こう見ずな性格のヤツも居るようで「あの頃の俺へ」などという手紙がポストに入っていたこともある。
タイムマシンを使っているのにタイムパラドックスを知らないのかな…と少し心配になった。
人影を見掛けるようになって数日後。
久しぶりに友人と遊んだ帰り道に言われた言葉で考えを改める必要があることを知った。
「そう言えば、先週、駅前のゲームセンターに居たか?姿を見た気がするんだけど」
外からチラッとだから見間違いかもしれないけどな、という友人に曖昧に返事をしながら、
−−近い未来にマイムマシンが実用化されるんだな…
と思うのだった。
#あの頃の私へ
「全然、分からない…」
通勤途中にあるカフェの一角で彼女は頭を抱えた。
眼の前のテーブルにはノートパソコンと、分厚い参考書が開いて置いてある。
そのページは少ししか進んでいない。
彼女はこの春の人事異動で、デザイン部から情報システム部に異動になった。
配属されて最初に言われたのが資格を取ることだった。
「レベル1は簡単すぎて誰でも受かるから、レベル2を目指そうか」
先輩の鶴の一声で決まったけれど、いざ勉強を初めてみるとさっぱり理解できない。
ガッツリ文系の自覚があるし、理系資格というだけで乗り越えられない壁のような抵抗感があって、テキストを数行読むだけで眠くなってしまう。
―もしかして、畑違いの部署に異動させて自主退職を促すという別バージョンのリストラなのかな…。
新しい仕事を覚えながら取り組む久々の受験勉強は、彼女を徐々に追い詰めているようで。
あり得ない妄想まで浮かぶようになってしまった。
―まあ、先輩も教えてくれるって言ってたし、もう少し頑張ってみるか。
新手のリストラでは無いことを祈りつつ、勉強を再開する。
彼女の勉強漬けの日々は、まだしばらく続きそうである。
#逃れられない
気を抜くと暗い話ばかりになってしまうので、なるべく意識してポジティブな内容を書き綴ることにしている。
「また明日」で話を書こうとしてみたが、どうしても死や別れを連想する内容になってしまう。
頑張ってポジティブな話にまとめてみても、何処となく破滅的な影を感じる。
とても明るく前向きな印象を与える言葉なのに、おかしなことである。
Google先生に聞くと「また明日」には、明日も会えますように。や明日頑張ろう!などの希望や期待を表す心情が含まれるとのこと。
物語の中で"また明日"と書くと「期待や希望を表現→それが叶わないシーンを連想」という負の連鎖に陥るようだ。
「また明日」は「破滅フラグを立てる言葉」として分類・管理することにしようと決めた。
#また明日