YUYA

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8/31/2025, 5:45:57 AM

あるカフェでのこと。

彼女はコーヒーを頼んだ。
彼はカフェラテを頼んだ。

店員がカップを置いた瞬間、彼女がひとこと。
「えっ、それ私のじゃない?」

彼は慌ててカップを見て、真顔で答えた。
「いや、ラテアートがハートだから、きっと君のだよ」

彼女は笑って返した。
「違うよ、私ブラックコーヒー派だもん」

ふたりは顔を見合わせて、同時にクスッ。
結局、入れ替えて飲むことになった。

そして最後に彼がぽつり。
「でも、結婚したらこうやって料理も間違えて取り合うんだろうね」

彼女はまたクスッと笑った。
「じゃあ、最初から“ふたり分け合うメニュー”にしたらいいんじゃない?」

カフェの隅で、コーヒーとラテよりも甘い空気が漂っていた。

8/24/2025, 6:31:49 AM

影の遠雷


夕暮れの校庭に
遠く低く、雷が鳴る
まだ来ぬ嵐を思わせるその音は
胸の奥の影を揺さぶっていた

言えぬ言葉 届かぬ想い
笑顔の裏で 沈む孤独
仲間の声に混ざれぬ自分を
遠雷がそっと映し出す

青春とは、輝きばかりではない
不安に濡れた影が
未来を怯えながら見つめる時間
けれど、その震えこそが
やがて光を呼ぶ前触れなのかもしれない

8/20/2025, 1:30:24 PM

夢は方法を呼び寄せる
月を見上げたとき
人はまだ翼さえ持っていなかった
それでも「行きたい」と願った心が
重力を超える知恵を生んだ

不可能とは
方法がまだ見つかっていない状態にすぎない
我らがすべきことは
「できる範囲」を探すことではなく
「どうすればできるか」を問うことだ

月へ至ったように
未来もまた
私たちの問いの形に従うだろう

8/14/2025, 1:20:04 PM

灯台守にて


嵐の夜、私は海沿いの灯台に辿り着いた。
灯りの傍らには、長年ここを守る老いた灯台守。

「嵐でも、毎晩灯を絶やさぬのですね」
そう問えば、彼は海を見据えたまま答えた。

「船が来るかどうかはわからん。
だが、誰かが来るかもしれぬ夜に
灯を消すわけにはいかんのだ」

私はグラスに注がれた琥珀色のラムを口に含み、
しばし波の轟きを聞いた。

「あなたの灯は、海を渡る者だけでなく、
陸に立つ者の心も照らしているようです」

老いた男は、少しだけ口元を緩めた。
外では、風が少しずつ穏やかになっていた。

翌朝、私は港を離れ、
水平線の向こうに次の物語を探した。

8/13/2025, 11:44:19 AM

砂漠の商人にて


真昼の砂漠で、私は一匹のラクダと、
その手綱を握る商人に出会った。
背には宝石の詰まった袋がいくつも揺れている。

「町に着いたら、もっと多くを手に入れるつもりだ」
商人は、砂に反射する光を眩しそうに見やった。

「しかし、そんなに抱えてどうするのです?」と問えば、
彼は少し黙ってから言った。
「重いのはわかっている…
だが、手放すのが怖いのだ」

私は帽子を脱ぎ、
熱を帯びた風にしばし身を任せてから、こう答えた。

「握りしめすぎれば、砂も宝石も同じように
指の隙間から零れ落ちます」

商人は黙り、足元の砂を見つめた。
遠くで蜃気楼が揺れ、
その中に私の次の旅路が霞んでいた。

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