「青い風に吹かれて 」
青い風に吹かれて どこまでも
空と大地のあいだで 私は揺れていた
歩いているのか 漂っているのか
その境界すら もう忘れたまま
足元の石は 過去の記憶
すれ違う人は 未完の物語
誰かの笑顔をポケットに忍ばせ
知らぬ地平を そっと踏み出す
旅には地図がない
あるのは 選ばなかった道への名残と
選んだ道の先にある 風の音
涙がこぼれた日も
嬉しさに言葉を失った夜も
すべて風が運んでくれた
忘れぬようにと 胸の奥に残して
ときに風は冷たく
背を押すどころか 立ち止まらせた
それでも私は歩いた
それでも それだから 歩いた
この道の終わりを知らなくていい
たどり着かなくても構わない
大切なのは 風が吹いていること
私がそれを感じられること
青い風よ、
今日も私を連れていって
心の奥にしまった願いの場所へ
まだ名もない 明日という名の岸辺へ
どこまでも、どこまでも
風に吹かれながら――私は旅をしている
「進歩の影」
私たちは天を突くビルを建てた
だが、気は短くなった
道を広げ、車を早く走らせる
けれど視野は、どこまでも狭く
金を払い、物を買う
けれど心には何も残らない
大きな家に住みながら
家族とは、小さな声でしか語れない
便利さに囲まれているのに
「時間がない」と呟いてばかり
専門家が増えても
解けない謎は、さらに積もっていく
薬の数は日々増すけれど
健やかな笑顔は、減ってゆく
――進んだのは技術だけか
――豊かになったのは、表面だけか
私たちは何を得て
そして何を、失ったのだろう
土の奥底
目を閉じて
光を夢見ていた
長い長い闇の時を抜け
震える羽を広げ
夏の空へと歌を放つ
命は短く
叫びは空に散り
ただ響き続ける
いつかまた
大地へ帰る
儚くも確かな
命の旅路
「見上げた者だけが」
空の青さは
誰かの言葉じゃ伝わらない
写真にも映らない
比喩にも乗りきらない
ただ、見上げた者だけが
知っている
あの果てのない静けさを
涙のような光の揺らぎを
俯いていては 気づけなかった
風が頬を撫でるその瞬間に
心がふっと ほどけていくことを
空はいつも そこにあった
けれど、見上げた日から
それは「答え」になった
「届かない手紙」
君のために選んだ マグカップ
少し欠けたけれど それでも温かかった
あの日の「またね」が最後だなんて
思わなかったから 笑って手を振った
夜が長くなるたびに
胸の奥に灯る 小さな明かりがある
もう届かないと知っているのに
それでも 君を想ってしまう
何気ない言葉、何気ない仕草
どれもが 宝石みたいに
今でも輝いているのに
触れられない、届かない
だけど消えない
それがたぶん――
小さな愛の、最後のかたち