始めから、あなたに会わなければ良かった。
会わなければ、あなたを失うときの悲しみも、
苦しみも寂しさも感じることが無かったのに。
嫌い。嫌いだ。
僕の事をおいて、僕の手の届かないところに行ってしまうあなたが大っ嫌い
でも、でも、僕はあなたを心から嫌うことが出来ない。
僕はそれ以上にあなたを愛しているから。
きっと、あなたと会うことは最初から決まっていた運命だったんだ。
あなたを見て、初めて心臓があんなにうるさく鼓動することを知ったんだもの。
あの人は太陽のような人だった。
だから、僕のもとを離れて天国に行ってしまった。
あの人が天国に行ってから数十年。
愕然と空いた心の穴は1ミリも埋まっていない。
そろそろ僕も潮時だ。
あの人は太陽になったも同然だから、僕は月なんだろうか。
でも、月だけは嫌だ。
月と太陽はほとんど交わることがないから。
月になるくらいならば、
そう思いながら病院を抜け出し森の泉のほとりに立つ。
光輝く月を見上げる。
月に、月になるくらいならば、
「シリウスになりたい」
明日、もし晴れたならばあなたにひまわりを届けに行こう。
満開に咲く桜の木の下に永久に眠るあなたに二度と会えない寂しさと、悲しさと心に残る太陽よりも明るいあなたの笑みを。
「もしも、タイムマシンがあったらどーする?」
花を手向けながら眩しいほどの笑顔であなたは言った。タイムマシンがあったら、なんて不思議なことを言うのはあなたぐらいだった。
そうだなぁ…あなたが生きていた頃に戻りたいな。
そんなことを思いながら、あなたのお墓にひまわりを届ける。この世で一番綺麗な人だった。
心地いい。
温かな雲にのっているような、そんな感覚。
だが、そんなものもつかの間、僕は何かに引っ張られ、その空間から抜き出される。
明るい。明るすぎて目が痛い。
助けて、と必死に泣き叫ぶ。
母から赤子がうまれた。
赤子は驚きで泣き叫び、母と周りは歓喜で泣く。
母は数ヶ月前から決めていた名前に思いをのせて命名する。
赤子は死ぬまでその名前を語り続ける。
「わたしのなまえは、 」