あまり

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8/3/2024, 11:57:32 AM

ナイスアイディア!を思いつくのは大抵夢の中
急げ、目が覚めるまでにメモれ!と
必死に殴り書く私
いや、夢の中でメモっても意味無いし!
と放り投げるまでがワンセット
そのことだけは強烈に覚えているのに
肝心の、ナイスアイディア!は
微塵も覚えていない

やたらカラフルな夢を見るときがある
夕刻の空に虹がかかり
信じられない純度で星が輝きはじめる
急げ、目が覚めるまでに写真を撮れ!と
必死にスマホを取り出す私
いや、だから夢の中で撮っても以下略

夢の内容をあらゆるメディアでそのまま現像してくれる
そんな機械があったら良いと思う反面
それは夢の外に持ち出したら
案外チープでつまらないものかもしれないとも思う
だから今度こそ必死にならず
ただただ夢を楽しもうと思うだけれど
そんなこと夢の中では
微塵も覚えていない

ままならないゆめうつつ


『目が覚めるまでに』


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五感の刺激を伴う記憶は長く残るものですね

一番はじめの記憶は
茶卓の上の白いカップ
とても苦くて少し酸っぱい水

見送りに来ない我が子に少ししょんぼりの父を送り出し
母が居間へ戻るとそこには
飲み残しのコーヒーカップを抱えた1歳半幼児
いわく、
「やっぱりブラックは美味い」

さながらホラーだったと後に語った母と
生まれつき強がりだけは一人前の子
双方に衝撃がはしったひとコマ

2番目の記憶は
何から何まで白い部屋
鼻の奥がツンとする 居心地の悪い匂い

窓からのぞく空と
父の入院着だけが薄水色で
こすったら消えそうな真昼の細い月と
何から何まで細い父と
全部が全部 穏やかで生暖かくて気持ちが悪かった

人生長く残るのは
上手く飲み下せない思い出と
優しい記憶ばかり


『病室』

6/2/2024, 7:40:06 AM

オホーツクの海から湿った風が吹き
蝦夷にも梅雨が訪れて
雨音は心地よいけれど
雨垂れの音は煩わしい
腫れ上がった脳みそをつつかれるようで
じめじめと湿気は鬱陶しいけれど
微かなカビ臭さは嫌いじゃない
押入れの匂いを思い出すから

押入れに重ねられたお布団の上
タオルケットにくるまって
壁のしみを眺めていると
そこはいつの間にか嵐の海に浮かぶ船上で
恐ろしい怪物と戦ったり
無人島に流れ着いたり
野生の動物と友達になったり
焚き火を囲んで
名前のわからない果物や
骨付きのお肉を食べた
それは目を瞑って見る夢よりもずいぶん鮮やかで
梅雨になると
暗がりで見た白昼夢の
無人島に住む虎の
くすくす笑いが
あちこちの隙間の影から聞こえる気がする
カビの匂い
湿気取り買いに行かなきゃ


『梅雨』

2/6/2024, 11:31:30 AM

時計の針とはどことなく
死を連想させるものだろうか
大きな時計塔の針に挟まれたりして死ぬ
そんなお話をいくつか知っている
それとも昔はそんな事故が本当にあったのだろうか
なんとなく古めかしくて浪漫ある死に方だねえ なんて
不謹慎なことを思う
どうにかこのデジタルな数字の隙間にも挟まれないものか
スマホを見つめながらぼんやりと思う朝


『時計の針』

2/5/2024, 11:44:26 AM

屑籠が溢れている
押し込めばまだいけると思った
一瞬収まったかに思えたそれは
時間と共に膨らんで
屑籠から溢れている
散らばったそれを拾い集める時ほど
惨めな気持ちはなくて
溜め込むと捨てるのも一苦労だから
掃除はこまめにね


『溢れる気持ち』

2/4/2024, 10:55:17 AM

キスで呪いが解けるのは御伽噺の定石
現実で解けるのはどうやら
悪い魔法だけではないらしい
お姫さまも王子さまもいない
世の中は蛙で溢れている
いくばくかの恐怖や 憧憬や 矜持
あるいは恋といった魔法が
健気な蛙たちを人たらしめているのだ
真実の愛とやらがあるのなら
蛙をお姫さまや王子さまに変える
魔法が使えるのかもしれない
たとえばキスのひとつで


『kiss』

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