1000年より前から
人は美しいものを集めてきたのだ
それは珍しい石ころだったり
心踊るリズムであったり
空の色だったりした
時にはそれを空想に織り込んで
豪奢な反物を仕立てるように
物語を編んで
その価値を分かち合った
1000年先も人は集めているだろうか
波打ち際で貝を探すように
火星の砂漠で
月の裏側で
飽きもせず美しいものを
『1000年先も...』
黄金色に輝くたてがみ
きよらかな銀梅花の冠
胸にともるルビーの勲章
目にはうつらない美しい飾り
『誇らしさ』
夜の海の底を
旅せざるおえない日も大丈夫
命は発光していてあたたかいものだから
おどろおどろしい怪物のかげも
照らしてみればよく知るかたちをしているはずさ
東を目指す旅
ありがたい経典を得られるわけでもなく
苦難をともにする仲間もいない
死の淵の闇をのぞきこむような航海
けれどそれは生まれ変わりのチャンス
ほら
東の水平線にはたくさんのひかりが集まって
空を燃やしているよ
もうすぐ夜が明ける
『夜の海』
あの夏
みんな は ぼくよりはやく
自転車にのれるようになって
遠ざかるうしろ姿をぼくは走って追いかけた
すこし先の上り坂で競争になって
みんなの背中が坂のむこうへ見えなくなったとき
一瞬 悲しくなってとまった足を
あきらめに似た気持ちで動かした
とにかく進まなければ追いつけはしない
いつだってそうだ
おいていかれることにはあんまりなれていて
待たせるのも嫌だからぼくもそうしてほしかった
坂のてっぺんを越えると
自転車からおりたきみが立っていて
「まってって、なんで言わないの?」って言った
うまく返せないぼくを自転車の後ろにのせて
君はぐんぐん坂をくだった
町なみのむこうに見える海とまっしろな入道雲へ
有名な映画の少年と宇宙人みたいに
飛べるような気がしてドキドキした
言葉にすることすらすぐにはできなくて
でもあのときほんとうは ほんとうに
うれしいと思ったんだ
『自転車に乗って』
きゅうに動けなくなってしまうようなときは
目をつむってひだまりをさがす
子供のころに食べた姫リンゴの味
愛犬のやわらかな毛並み
大好きなピアノの音
君の書いた詩
ひだまりでまるくなってあたたまる
生きていると失くしてしまったり
変わってしまったりするようなこと
でもその小さな幸福があたためてくれたところは
いつまでもぬくぬくとして心地よかった
『心の健康』