秋がまぶしいね
西陽の射す街路に風が吹けば
赤や黄色 とりどりの葉が
扇をひるがえすように空を舞いながら
陽射しをあちこちへ照り返している
ツヤツヤとはしないオンコの実の優しい色と甘い香り
烏が胡桃を拾って来ては道路にほうっている
リスたちが忙しなく走りまわり
時々路上で干物になっている
お腹を膨らませた鮭たちが
ぼろぼろになりながら川を昇っている
いのちが駆け足でまわって まわって
誰もが実りを蓄えることにも
差しだすことにも余念がない
少しずつ厚着になって丸くなっていく君のシルエット
じんわりと冷えていく風がオンコ色に染めた君の頬
ひらひらとふりつもる落葉は桜と同じ美しさだ
冬が来るよ
指先から紅葉していく君の手のひらが差し出され
金色の光をひとひら照り返す
秋がまぶしいね
『秋🍁』
海から吹く風 入道雲 ヒマワリの花
クラフトバンドを編みながら
麦わら帽子が連れてくる夏の景色を思う
ずっと憧れがあった
カントリードールの女の子がかぶっていた帽子
ウルスラがキキを訪ねた時にかぶっていた帽子
セージ ミント シナモン オレガノ
乾燥させたラベンダーといくつかのハーブ
シトラスの精油を少々
オーガンジーでつくった巾着に包んで
小さな麦わら帽子に詰めた
本物の藁で作れたら良かった
お気に入りの布をリボンにして縫い付けたら完成
窓際に吊るしてしばしながめる
少しは供養になったかな
陽炎の中に手をふる子供の影が見えた気がした
『麦わら帽子』
聖火だの 方舟だの
私の身体をめぐりあたためている血の流れ
ふえるのか ふえないのか
私の細胞という細胞をふるわせている命
日ごとに伸びてゆく朝顔のつるに螺旋のつぼみ
畑を覆う黄金色の亡骸
硝子窓に打ちつけては無数に弾け散る雨粒
夏ごとにいくつの船が川を流ていったのか
ひとつの枝を手折っても 野山は茂り
ひとつの糸が尽きても
連綿と編まれてゆくタペストリー
えいえんに織り込まれたひとつの命
灯されたことに意味があるなら
消えることにも意味は生まれるのだ
始まりに意味などないなら
終えることにも意味などいらないのだ
燃えうつることなく風の中に消えた火の粉
神様が間引いた麦のひと粒
続くのか 続けないのか
ながいながい旅のひとつの終点
『終点』
曇り続きの空の下
ひょろりと伸びた首の上に
真黒なかんばせをのせて
ぼうと立ちつくす
ヒマワリの群れたちが
ゆうら ゆうら と揺れている
どうか そろそろ 照っておあげよ
『太陽』
体温計は7℃を表示したまま
昨日から上がりも下がりもしない
平日 空調に甘やかされた私の体温調節機能は
休日になっても働く気がないらしい
先週もそうだった
こんなときには
体感温度が2℃下がるらしい魔除けを窓に吊るす
多趣味な伯母のお手製
つるりと丸い 陶器の風鈴
茶碗を叩く音のような
けれども もっとやわらかくてよい音が鳴る
どうか我が身に巣食った魔のような熱を祓い給え
蘇りの札を貼られたキョンシー の気分で
額に冷えピタを貼る
思い出したように吹き出す汗を拭いながら
部屋の掃除をする
腐りかけの死体の速度で
室内にあるまじき湿った土の匂い
仏壇に供えた 貰いもののメロンから 無言の圧を感じる
傷んでしまったのか
切るのが億劫だ なんて思ってごめんなさい
ザラついて黴臭さい皮に恐る恐る刃をいれる
とたんに
ハマナスの花がひらいたのか と思うほど
濃密な甘い香り
瑞々しいオレンジの果肉
熱に浮かされた心身に染み渡る
風鈴の音と甘いくだもの
生き返った気分で
ぼんやりと風邪を引いたときの優しさを思い出す
猛暑の昼下がり
『鐘の音』