あまり

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3/30/2023, 9:43:45 PM

君が何気ないふりで抱えて歩く
心にぽっかりあいた穴に
風がとおって鳴る音を
僕はときどき
聞いてしまうことがあるんだ

それはやわらかな土笛の音色
夜を纏う梟のうた
銀河をさまよう汽笛

生まれたばかりの雛鳥の喉のふるえが
小さな蝶のはばたきが
身体の内に巣食う暗闇の
がらんどうをふるわせて
僕の心もふるえている

あちらこちらで風がおこり
孤独な心の共鳴が
音楽のように世界をみたしている
何気ないふりで抱えて歩くものを
知らせている


『何気ないふり』

3/29/2023, 12:48:45 PM

もしかしたらずっと
蛇足の世界を生きているのかもしれない

より添う仲直りの恋人たち
まどろみながら布団へはこばれる子供たち
飼い主の足もとでまるまる動物たち
どこかで美しい物語がとじて
安らかな息が大気をみたす
退屈な夜
温かな部屋
コップの中のミルク
窓辺のきらきら星

日々おとずれては去っていく
ちいさなパッピーエンドを
紙に書きつけたり
口ずさんだりして
幸せな物語にはいつまでも
ひたりたくなってしまうね
私はきっと
ずっとどこかの誰かの
エピローグの世界を生きていて
だからここはあたたかい


『ハッピーエンド』

3/27/2023, 12:31:40 PM

わたしの心をあげる
病にでもかかったというのか
最近 鉛のように重たくて
だから
少しずつ 少しずつ
毒を盛るように
あけわたしてあげる
あなたの
盛った毒が
わたしを蝕んだように


『My Heart』

/

神さま 神さま
わたしだけの
神さまがほしい


『ないものねだり』

3/25/2023, 11:55:08 PM

好きじゃないのに
目が離せない
好きじゃないのに

夜ねむる前の天井にあらわれた黒点
明かりをつける勇気がない
さりとて目蓋を閉じる勇気も持てず
どうか動くな こちらへよるな
ただの染みであってくれ
ただじっと息をひそめて 見つめる

目が離せない
好きじゃないのに
目が離せない


『好きじゃないのに』

3/25/2023, 1:01:58 AM

町のはずれ 丘の上に建つ
君のぽつんと一軒家
空にはそこだけ雨雲が浮かび
屋根の上で猫がくつろぐように
黒くとぐろを巻いている
白い格子が絶え間なく
天から地をうがち
わたしはやかましいそれを傘で避けながら
坂道をのぼった
10分ほどかけて玄関ポーチに辿りつき
息を整えながら傘をたたんで
扉を強く叩く
備え付けのインターホンは壊れていて
その横に新たにつとりけられたものも
今はただの飾りと化している
しずかに扉が開かれ
家主がひょこりと顔をだす
電池買って来たよ と
片手にたずさえた袋をかかげれば
彼女は猫のように目を細めた

いつからか この雨屋敷の家主たる彼女の頭上には
雨雲がとりつくようになって
追いやられるようにここへ移り住んでからは
外にもあまり出ていないようだ
訪れる人も今はわたしくらいのもので
彼女の生活に必要なものを買い足しては
月に何度か届けていた

先週買って来たコーヒーを彼女がいれてくれる間に
インターホンの電池や
廊下の電球をとりかえる
今どき珍しい白熱電球
LEDの冷めた色の光が
彼女はどうにもお気に召さないらしかった

用事が全て済んで
話すこともつきてしまっても
帰るとも 帰れとも言わず
コーヒーの香りの漂う部屋で
ふたりでほうけるように 雨音を聞いた
もり塩のように 部屋の四隅に置かれた除湿剤
降りやまない雨は誰の意図だろう

また来るよ と 手をふって
開いた傘の向こうで 彼女も手をふる
丘から見下ろした町は
優しいやまぶき色に照らされている
やがてわたしもその色へ染まるのを
彼女は見ているだろうか
次は花をおみやげにしよう
日だまりの色を束にして


『ところにより雨』

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