今日の空は
ふれた指先が染まりそうな青
思わずかざした手を
ごまかすようにのびをした
そこになにもありはしないのに
美しいだなんて ずるい
とどくはずもないのに
あまりにあざやか
網まくにうつる 青
息を吸い込めば
肺まで青く
染まっていく気がした
『特別な存在』
父の望遠鏡
覗きこんだレンズの中
遠ざかる星のしっぽ
を
つかまえたくて
明かりを消したベランダ
凍える息をしずめて
さがしていた
幾晩も
いつまでも
『バカみたい』
幼い頃の記憶
夕方 すずしい風がふきはじめたら
犬のポンタと散歩の時間
ちいさな足が
ちいさな歩幅でせわしなく
アスファルトにつめ音をたてた
彼はいつも前を歩いて
よこへ並ぶとかけ足になるので
わたしは甘んじて後ろを歩いた
赤いリード紐が
風になびく 小麦色のたてがみから伸びて
わたしの右手につながれていた
ゆれる
なわとびの
おおなみこなみのリズム
ひっぱられず ひっぱりもせず
でもその端をはなしてしまえば
彼はわたしをふり返り
すぐにどこかへ とんでいっていまうから
赤い輪っかに手首をとおして
にぎりしめた紐はいつも
じっとりと汗でしめっていた
街路樹が風に枝葉をふって
影がどこまでものびて
夕方はいつも ふたりぼっちの時間
『二人ぼっち』
よく見る夢は真っ暗
うかぶもののない空と
アスファルトにおおわれた地面
遠くに生えるビルの群
時々たつまきが雷鳴をひきつれて
それらをこなごなに砕いていった
目が醒めてしまう前に
目が醒めてしまう前に
なにかしなくては
夢は出処のわからない焦燥をともなう
しかし動けと思うほど身体は固まり
疲労感こんぱいでタイムアップ
アラームで目が醒める
大事なのは
夢が醒めてるうちになにをするかなのだと思う
良い夢を見るためにも健康的に生きよう
『夢が醒める前に』
しっとりとしたツヤの刺繍糸
金銀硝子のビーズ
スパンコール
透かし模様の貝のボタンや
エンブレム入りの金属ボタン
何をつくるにも
少し足りないそれらを
小箱ならべては時々ながめる
空想の中でおとぎ話のお姫さまのドレスを彩り
冠やブローチやハンカチになって
貧しい少年や少女にとどけられる
無心で針を動かすのも好きだったけれど
今はそういう夢想をする時間がいちばん心地よい
まっしろなノートを前にしたときの胸の高鳴り
優しい疲労感でみる 夢の美しさ
『胸が高鳴る』