幼い頃の記憶
夕方 すずしい風がふきはじめたら
犬のポンタと散歩の時間
ちいさな足が
ちいさな歩幅でせわしなく
アスファルトにつめ音をたてた
彼はいつも前を歩いて
よこへ並ぶとかけ足になるので
わたしは甘んじて後ろを歩いた
赤いリード紐が
風になびく 小麦色のたてがみから伸びて
わたしの右手につながれていた
ゆれる
なわとびの
おおなみこなみのリズム
ひっぱられず ひっぱりもせず
でもその端をはなしてしまえば
彼はわたしをふり返り
すぐにどこかへ とんでいっていまうから
赤い輪っかに手首をとおして
にぎりしめた紐はいつも
じっとりと汗でしめっていた
街路樹が風に枝葉をふって
影がどこまでものびて
夕方はいつも ふたりぼっちの時間
『二人ぼっち』
3/21/2023, 11:29:31 AM