わたしずっとダンスを
ひとりで踊っているみたい
くるくる ひらり とは いかず
いつも ぐるぐる ぐらり だ
さみしいやつだね
さみしいやつだ
でも人の足をふまずにすむし
転んでもしんぱいされないし
それだけで羽根のはえた気分
ひとり遊びも わりと楽しい と
ぐるぐる ぐらり
ずっと
ぐるぐる ぐらり
『ずっと隣で』
君は授業中ノートの端に詩をしたためるタイプの中学生だった。正直内容はさっぱりわからんかった。
それでも当時ラノベにはまり物書きに憧れていたおれには君が、何か特別な才能を持った人に見えていた。
カッコイイとか天才だとか熱心に褒めた記憶がある。そうすると君は、嬉しそうにはにかんだっけ?
今どこにもいない君はおれの頭の中であざやかな放物線を描き落下していく。ガラス窓に映る温度のない太陽を何度も引き裂いて君はいつまでも落下する。
今更になって君が知りたいとか恥ずかしいことを思った。ベランダで夜風に吹かれながら、君の目線で世界を見たくて今は詩を書いている。が、それを詩と呼べるのかどうかすらおれにはわからないままだ。君ともっと素直に話しておけば良かった、なんて。
風がマンションを駆け昇り星の海で墜落する君を受けとめる。夜景の街にゆっくりと、無音のまま君が降り立つ。一瞬だけ君はこちらを見上げるとすぐに前へ向き直り、明かりのない路地へと消えていった。
その後ろ姿からいつまでもいつまでも目をはなせなくて、ベランダの柵を強く握りしめた。
夜風に吹かれるおれは、未だ初恋の中学生だ。
『もっと知りたい』
静かに眠りこける朝を
大地がゆする
言葉なくなにかを訴える
貧乏ゆすりのように
お腹減ったな
脳裏に星を飛ばしながら
薄闇のなかで冷蔵庫をひらく
納豆のパックをあけて
少しお米をのっけて
こぼさないように混ぜる
ほかほかごはんの湯気が大豆の香り
甘さをかみしめながらテレビをつける
冬毛の犬たちがソリを引いていた
白い息までふわふわで
なにかがきしむ音を聞いた気がする
とてもだいじなことを考えていた気がする
でも目が覚めれば大抵それは
くだらないことだったりするのだと
根拠なく納得して
不安を飲み下す
形にならないことを少しずつ
日常の裏へとりこぼしていく
『平穏な日常』
銃声を覆うように
祈りの声が鐘を打ち鳴らす
世界中の歌や文字や絵の中に白い鳩が飛ぶ
血と硝煙でけぶる空が青く染め上げられる
嘘くさくてもいいではないか
できるだけ多く愛をうたおう
世界中のカナリアたちが終末を叫んでも
凍土を耕し種を植える
多くの先人たちがそうしてきたように
子供たちの手が柔らかなまま
いつか白銀に輝く
オリーブの葉を受けとれるように
人々が祈りを忘れる朝が来るまで
世界中の鳩がただの鳩になるまで
『愛と平和』
日めくりをまた一枚ちぎっては
過ぎ去った日々の裏に落書きをしていく
少しずつ積もりはじめたそれに
窓から吹き込む風が潜り込んでは
殺風景な部屋を走り周り
そこかしこで足音を立てた
他人から見れば価値のない紙切れ
それでも降り積もった日々は
どうしようもなく私の心をくすぐった
『過ぎ去った日々』