あまり

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3/8/2023, 2:01:40 PM


※グリム童話の千匹皮からモチーフを拝借しています

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昔々あるところ、
生家から逃げ出し一人さまよう少女がおりました。
太陽のような金のリボンで髪を結い
月のような銀のショールを纏い
星のように輝くスカーフを首に巻いています。
そしてその上から
ウワバミのように長く縫い合わされた
千匹の獣の皮を被っておりました。
少女のことは千匹皮と呼びましょう。

あてど無くさまよううちに
千匹皮は何処ともしれぬ街へと辿り着きました。
つぎはぎされた毛皮を引きずって歩く千匹皮に
街の人々は遠巻きに好奇の視線を送ります。
千匹皮が歩く度に
汚れた毛皮のその奥に
リボンやショールがキラキラと光りました。
やがて仕立ての良いワンピースの少女がやって来て
あなたの素敵なリボンが欲しいと言いました。

リボンをあげたら何くれる?

千匹皮は訊きました。
ワンピースの少女は千匹皮に
キラキラ光る金の硬貨を渡します。
千匹皮はお金というものを知りませんでしたが
キラキラした硬貨が気に入って、
リボンを渡すことにしました。

リボンを受け取ると少女は
自分の焦げ茶色の髪にそれを結びます。
少女は自分の髪の色が大嫌いでしたが
金のリボンを結ぶとそれは
大輪の向日葵が咲いたように華やぎました。
少女はたいそう喜びながら去っていき
千匹皮も嬉しくなりました。


また千匹皮が歩いていると
今度は若いドレスの女性がやって来て
あなたのショールを譲ってほしいと言いました。

ショールをあげたら何くれる?

千匹皮は訊きました。
若い女性は千匹皮に
ツヤツヤ光る銀の硬貨を渡します。
若い女性は肩から首元まで大きな痣がありました。
しかしそれは銀のショールを纏ったとたん
月のように神秘的でとても美しい模様になりました。
女性は丁寧にお礼を言って去っていきます。
はにかんだ笑顔に千匹皮も嬉しくなりました。

星のようなスカーフは
優しそうな老紳士に
ピカピカ光る銅の硬貨と引き換えて
千匹皮は喜びました。
スカーフは奥さんへの贈り物になるようですよ。

ずるずる。
獣の皮をを引きずって
千匹皮は歩きます。
だんだんと日が暮れてゆき
だんだんとお腹が空きました。
するともらった硬貨がたいそう
重たいように思えます。
ついに歩く力もなくなって
千匹皮は座り込んでしまいました。

長い毛皮は千匹皮から寒気を遠ざけましたが、
綺麗な硬貨を齧ってみても
ちっともお腹は満たされません。

パンを買えばいい

不意に毛皮の中から声が聞こえて
千匹皮は驚きました。
いつの間に潜りこんだのか
煤に塗れて真っ黒な少年が
千匹皮のすぐ近くでくすくすと笑っておりました。
お金を知らない千匹皮の代わりに
少年はパンと葡萄酒と湯気の立ったシチューを
二人分買って来て
二人で並んで食べました。
それから二人は解いた毛皮の一枚を
燃やして暖をとりました。

これお金って言うのね
何でも貰えて凄いのね
これを使うとみんな幸せになれるみたい。

今お腹を満たしたパンと葡萄酒と温かいシチュー。
今日出会った人々たちの顔が思い浮かびました。
それから、かじかんだ少年の手をとって、
千匹皮は続けます。

でもあなたが教えてくれなきゃ
ここであたしはお腹を空かせたままだった
どんな色のお金を貰うより
あなたが今一緒に居てくれることが一番嬉しい

千匹皮は、
月のようにまあるい頬に
星のように輝く瞳で
太陽のように笑いました。
金貨や銀貨では
とても引き換えることの出来ない
宝物を見つけた心地で少年は
少女に毛皮のベールを
深く深く被せました。


『お金より大事なもの』

3/7/2023, 12:31:14 PM

今日の月は黄金色
ぴったり満ちてひたすら明るい
街明かりが夜空を濁すように
細かな星が見えない

古来より月は神秘であったそうだが
照らすものの多い現代では
真夜中に立つ街灯のほうが
よほど健気で詩的に思えた

ミジンコみたいな形に欠けた
少し歪な月ならば
多少は親しみもあっただろうか

完成されたものへの憧憬に目を瞑る
このまま寝てしまおう
いつまで見つめても
見つめても
今夜の月が欠けることはない


『月夜』

3/6/2023, 9:42:52 PM

私とってはそれは
地下に眠る水脈のようなもので
見えずとも絶えず流れて
雪解けの水が命を育むように
私の心に滋養をはこんでくれている

私の心も氷の結晶のひとつのようなものになって
この水脈からあなたのもとへ流れていますように

『絆』

3/5/2023, 12:31:44 PM

週間予報の雪だるま
気温グラフの乱高下
春を待ちかねくしゃみをする

たまには
全力疾走
思ったより足が上がらない飼い主と
どこまでもテンションの上がる飼い犬
中途半端に解けだした雪が
バシャバシャ跳ねて
夕日の撹拌された空を汚した
日差しの名残りなど一息で冷えていく
シャーベット状の雪は
凹凸を残した氷に変わる
まったくもって迷惑な
まだまだ冷たい空気が
今日はちょっと気持ち良い

もうすぐ春が来る


『たまには』

3/4/2023, 9:44:08 PM

両手一杯の花籠に
君の好きな色のリボンを掛けて
袋一杯にお菓子を
甘いのからおつまみまで
ドリンクは何がいい?
とびきり上手くいれてあげるよ
カモミールのミルクティー
アロマのキャンドル
カラフルなバスボム
宝石みたいな石鹸
そうだ君のお気に入りの作家さんの
新刊はもう買ったのかな

大好きな君に大好きなものをたくさん
たくさん抱えて笑って欲しい

あわよくばその中の
一つになれたら嬉しい


『大好きな君に』

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