謎い物語の語り手

Open App
4/24/2025, 6:24:58 AM

【どこへ行こう】

大切な人を愛することを諦めてしまった。

一時の想いを告げた。貴方の向こうに、必ず訪れるであろう惜別の別れとその虚しさを見据えてしまった。

何の取り柄もないただの私は
どうして永久不滅の愛を欲しがったのか。

貴方は既に他の誰かを見ていて、
まだ知らぬ景色を懐かしんでいるという。

あぁ、寂しくて仕方ない。
捨てきれないこの恋心はどこへ行こうと言うのだろう。

けれど、それで良かった。

独りよがりな愛を抱き続けた私の終わりが、
この結末だと言うのなら。

お似合いの最後だった。
貴方が幸せであれば、もう何も望むことはない。

4/10/2025, 11:30:39 AM

【元気かな】

少しだけ好きな人がいて、少しだけ。それでも彼とは毎日会っていたの。

私は今では地位なき魔法使いで、彼は…ぶっきらぼうで大人しくて、でもとっても優しい戦士だった。

でも、ある日その人はいなくなってしまった。

どこを探してもどんな魔法を使っても見つからない。

花びらが示す占いは、彼がどこかで生きていることを伝えるだけだった。

ただ焦って、この心に空いた穴を埋めることに必死になっていた。いなくならないと思ってた。

私たち、友達ですらない放浪者同士だったわね。

「元気かな」

青い空が私を見ている。きっと、どこかにいる彼のことも見ているのだろう。

空から見たら私たち、それでも近くにいるんでしょう。

だから、私はまた会えることを知っている。

今はこの花びらたちが彼を隠しているだけだから。

風が止んだ頃、きっとまた会えるわ。

そうなんでしょう?私の大切な人。

4/3/2025, 1:01:46 AM

【空に向かって】

どんよりと雲の掛かった暗い空を見上げている。
まだこの絶望が満たした部屋よりは明るい。

数日前から誰も掛からない罠をぶら下げて、ただそこに掛かることのない獲物を鏡越しに見た。

よれたスーツを着た自分が映っているだけだった。

昨日の夜、帰ってきてからそのままベッドにも入らず寝てしまっていた。

フローリングの冷たさを背中に感じた。
その冷たさですら今の自分には不充分だった。

「しょうもないな。本当に」

祈る神もいない。ただ光の差し込まない空に向かって呟くだけで、その声も虚空に消えていく。

病むことも健やかでいることも叶わない人生に、救いなんてないんだから。

3/24/2025, 10:27:00 PM

【もう二度と】

大切な人がいた。柔らかな陽だまりの中で、幸せそうに笑うその人を見るのが大好きだった。

闇の使者である私は、自分の使命を忘れてその人を愛してしまった。太陽の元で君と笑い続けてしまった。

その眩しさに自分の身が滅ぼされていくのを分かっていながら、君と共にあることを望んでしまった。

太陽と月が一緒にはいられないように、私と君も…。

何百年も闇に仕えて生きてきた。
人間の心の愚かさを私はよく知っている。

都合の悪いことを忘れてしまうこと。
現実から目を背けて逃げてしまうこと。
心が移ろってしまうこと。

その愚かさで、ずっと幸せに生きてほしい。
何にも……私との思い出にも囚われず。

「人の一生は短いが質が良いようだ。…君には大切な記憶も人もたくさんある。そしてこれからもね。」

「急にどうしたの?最後みたいに言っちゃって。」

最期だから。光の中に溶ける私は、もう二度と君と笑いあうことはない。でもそれでいい。

私は君と会えて幸せだった。

3/16/2025, 1:31:28 PM

【花の香りと共に】

春先のことだった。
少し遅めの桜が咲いて、私はそれを見ていた。

「もう他の桜はすっかり散ってしまったよ。
君だけが遅かったんだ。一人ぼっちさ」

自嘲を込めた笑いを浮かべてみるけど空しいだけだった。どうしたってこんなに心は空っぽなのか。

もう私には出会うものも別れるものもなくなった。
文化人としての自分が死んだようだった。

緩やかな風に吹かれて花びらが少し舞った。
仄かな桜の匂いが漂ってきている。

私も、この花の香りと共に逝けたら良い。

「花と散ろう…桜の花だけに…なーんて」
冷たい風になってきたなぁなんて…思わないけど。

ループタイを締め直してその場を去った。
風が強まって桜が咲ったように花弁を散らしていた。

Next