【もう二度と】
大切な人がいた。柔らかな陽だまりの中で、幸せそうに笑うその人を見るのが大好きだった。
闇の使者である私は、自分の使命を忘れてその人を愛してしまった。太陽の元で君と笑い続けてしまった。
その眩しさに自分の身が滅ぼされていくのを分かっていながら、君と共にあることを望んでしまった。
太陽と月が一緒にはいられないように、私と君も…。
何百年も闇に仕えて生きてきた。
人間の心の愚かさを私はよく知っている。
都合の悪いことを忘れてしまうこと。
現実から目を背けて逃げてしまうこと。
心が移ろってしまうこと。
その愚かさで、ずっと幸せに生きてほしい。
何にも……私との思い出にも囚われず。
「人の一生は短いが質が良いようだ。…君には大切な記憶も人もたくさんある。そしてこれからもね。」
「急にどうしたの?最後みたいに言っちゃって。」
最期だから。光の中に溶ける私は、もう二度と君と笑いあうことはない。でもそれでいい。
私は君と会えて幸せだった。
3/24/2025, 10:27:00 PM