謎い物語の語り手

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【花の香りと共に】

春先のことだった。
少し遅めの桜が咲いて、私はそれを見ていた。

「もう他の桜はすっかり散ってしまったよ。
君だけが遅かったんだ。一人ぼっちさ」

自嘲を込めた笑いを浮かべてみるけど空しいだけだった。どうしたってこんなに心は空っぽなのか。

もう私には出会うものも別れるものもなくなった。
文化人としての自分が死んだようだった。

緩やかな風に吹かれて花びらが少し舞った。
仄かな桜の匂いが漂ってきている。

私も、この花の香りと共に逝けたら良い。

「花と散ろう…桜の花だけに…なーんて」
冷たい風になってきたなぁなんて…思わないけど。

ループタイを締め直してその場を去った。
風が強まって桜が咲ったように花弁を散らしていた。

3/16/2025, 1:31:28 PM