謎い物語の語り手

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1/3/2025, 11:34:36 AM

【日の出】

「馬鹿みたいな人生だった」
虚空に消える、すっかり口癖になった言葉。

健康な生命体たる自分の身体は自死を望まない。
でもきっと終わるだろうと希望的観測で生きてきた。

ずっと真っ暗な道を、遠くに見える死という光を追いかけて歩いてきた。全部終わる前提で創った道だった。

今、私は恵まれた環境に生きていて、それに気付いている。眩しすぎた光の中にいるのか目が見えないほどに。

笑うことも、泣くことも、怒ることも、恨むことも、慕うことも、慈しむこともできるのに、

私の心は晴れることなくずっとずっと虚しい。

そして、皆はそれを「貴方はまだ大丈夫」と言った。

私を幸せにしたい人達が大勢いてくれる。
「不幸な自分より幸せということにしたい」人達が。

分かってる。誰よりも私が一番。過去は見なくていい。
私の想いも、彼らの考えも全部一方通行だし。

ずっと、ずっとこのまま生きていくのだろう。
心の奥がずっと空っぽで、真っ暗な景色を見て。

そこに日の出を見ることも叶わないまま。

12/27/2024, 9:00:29 AM

【変わらないものはない】

諸行無常。何度も自分に言い聞かせてきた。

変わっていく自分の世界が名残惜しかった。

出会いと別れが表裏一体なんて知りたくなかった。

私は何度も願った。彼らと共にいられるように、と。

魔法の代わりに奇跡が存在する世界、でも私はずっと前から知ってたよ。

奇跡なんてないことを。世界がそれを捨てたことを。

ねえ、君は変わらないものはないって言ったよね。

でも、あるの。ひとつだけ。…私なんだけど。

みんなも、世界も、全部全部変わっていってしまう。

私もこんなに変わったのに、変わるしかなかったのに

私が愛されないこと、願いなんて叶わないことだけは

どう頑張っても変わらない。

世界が愛した私たちが仇を成し、愛さなかったように。

12/16/2024, 8:42:23 PM

【風邪】

なんだか、最近酷く調子が悪い。
寒くて、重くて、とてもだるい。なにもできない。

暖炉の傍で座り込む。熱で冷たさが和らいで、悴んだ手足が痺れたような感覚がする。

まるで緊張に似た痺れだった。

なんてことない、人生の最低にいるような。

生暖かい涙が頬を伝う。もう凍ってはくれず、ただ染みを作っていくだけだった。

ああ、風邪だ。風邪を引いてるんだ。

心がとても、とても寒くて、重くて、だるい。
もうなにもできる気がしない。

一人の寂しさに、叶わないこの虚しさに背を預けたって、倒れていくだけなのに。

今は床のひんやりした感覚でさえほしかった。
立ち上がれない私を支えていてほしかった。

ただの風邪が大したこと無い不調を招いてるんだと、信じるしかなかった。

12/15/2024, 11:38:57 AM

【雪を待つ】

昔々、雪の精霊と火の精霊が恋に落ちたそうだ。
彼らはもちろん、結ばれることなんてできなかった。

火は涙を流し、雪は溶け水になった。

彼らは幸せだったのか?それとも悲恋だったのか?

私には彼らが最期の時、どんなことを思っていたのか、或いは何を話していたのか皆目検討もつかない。

彼らは精霊だ。人間とは違う。

人間のような複雑な心なんて、「涙の理由」なんて、理解できなかったことだろう。

私も最近失恋をした。もう遠くへ行って会えない人に。
報われない恋心に共感はした。

でも、かの精霊たちはまだ幸せだろうと思ってしまった。水になって永遠に一つになれただろうから。

「生まれ変われるのかしら、精霊って」
別の精霊になるのかな。一つの水の精霊にでも?

ああ、全く下らないことを考えるわね。私ったら。
絵本を閉じて窓を見る。

二人の精霊に想いを馳せて窓を見る。彼らが世界を巡って、またここに舞い戻ってくることを祈りながら。

そして、私の悲しさを真っ白に塗りつぶしてくれるような、火のように温かい、寂しさより冷たい雪を待つ。

12/13/2024, 7:35:58 AM

【心と心】

兄さん、親愛なる兄さん。
僕はついに、あなたには届きませんでした。

僕の夢は、あなたから、皆から笑われただけでした。
誰も傷つけない、ただ温かい灯火を。

心と心、平穏を繋げることができると、啖呵を切ったのに。ああ、戯れ言でしたね。忘れてください。

僕の夢を成し遂げたのは、僕ではなくあなたでした。

皆から認められて、愛されたあなたは、あなたの能力で、尽力で、人徳で、全てを成し得たのですね。

僕は、僕には、何も足らなかった。
だから、だからこうなったのですね。

違う、野望なんかなかった。
世界を陥れるつもりなんてなかった。

力が暴走してしまっただけです。
止めていただけたことに感謝はしています。

僕ができなかったこと、触れられなかった人々の心に、あなたは平気で触れたこと。それは許せません。

僕の心に光はなかったと認めるのが怖いのです。

兄さん、許してください。あなたとまた、笑い合える日がくると願っていること、許してください。

ああ、時間です。兄さん、兄さん。
それでは、また。

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