柔らかい雨
人魚の女神が慈悲の涙を流したら、世界に雨が、人々に幸福が降り注ぐらしい。
そして再び幻の湖に水が沸き上がれば救われる。
ずっと、その言い伝えを信じていた。
いつか荒んで貧しい、この世界が明るくなると。
女神様、いつ私達に慈悲をくださいますか。
私はもう、何度も運命と戦いました。
彼らもずっと、希望を待ち望んでいます。
我ら聖騎士団に、剣を握る腕はもうないのです。
一筋の光が射し込む廃神殿の真ん中で祈る。
壊れた女神像は、もう私達に救いなどないことを示唆しているのかもしれない。
「どうすれば…良かったのでしょうね」
どうしようもなくて、女神像を抱きしめ泣いていた。
長い時間が経った。眠ってしまったのか。
見れば、女神像の目が蒼く光っている。
私の涙が女神像の目に掛かり、こぼれ落ち、泣いているように見えていた。
柔らかい雨が降り注ぎ、神殿は湖のように潤んでいた。
一筋の光
ネタ切れだ。
もう何も思い付かない。
頭の中の想像力の海は真っ暗だ。
一筋の光すら射し込んじゃいない。
眠りにつく前に
神代の昔、命を賜った二神は大地と生命を生んだ。
そうして世界を造ったが、女神はある日火傷を負い死んでしまったそうだ。
神話というものは実に単純で、人間どものその時の価値観と、支配の為に創られる。
「君が眠りにつく前に、もしもの話をしようか」
幾星霜を越えたいつの時代か。
死は穢れではなくなり、隠れた魂は生あるものから見えず、そしてそれは救済であるとしたら。
もしも今の生命が死んでも、別の生命に生まれることが信じられているなら。
私達は木を挟んで話していた。
「だから、きっと私達はまた逢えるよ。
今は、安心して眠ってくれ。辛い世から隠れてくれ。」
眠りにつく前の最期の君は笑っていた。
私は涙が止まらないというのに。
「なら、私は人間を眠りに導くわ。貴男がいつか、別の生として彼らを呼び起こせるようになるまで。」
そして、それは神をも支配する。
死が二人を別つとも、何度だって巡り逢おう。
永遠に
やっと復讐が終わった。
私にとっては酷く、酷く辛い選択だったよ。
でも、我が恋人を殺めた罪は重かった。
兄さん、そうだろ。何故彼女を魔女だなんて言った。
貴方が崇高で正しい司祭だったとしても、彼女を魔女と決めつけて裁判にかけたあなたは正義じゃない。
あんなに愛おしく、温かく笑う彼女が魔女な訳がない。
そう思ってた。だから、驚いたんだ。
彼女が本当に魔女だったこと。忌み嫌われる存在だと。
でもな、兄さん、あなたは一つ間違っていた。
彼女の魔術は優しかった。
一人調査して、彼女が白魔女だった事に気付いたんだ。
魔女がみんな邪悪だなんて、よく言ったものだよ。
ああ兄さん、私達は仲の良い兄弟と言われていたな。
だからこんな結末になるなんて思いもしなかった。
この世は諸行無常。ずっと続くものなどない。
それでも、兄さん。そして、我が恋人よ。
愛しているよ。永遠に。
理想郷
彼らは古来より歩き続けている。
あるはずもない理想郷を目指して。
何かを得れば何かは犠牲になってしまう。
そんなことを知り得ながら、学ぶこともせず。
人間よ。今私の体はどうなっているのだろう?
君たちの望む理想郷か。
それともこのまま死に行く未来か。
月は私を見て大いに嘆いていた。
これが我が護るあなたの末路なのか、と。
彗星たちは私を見て笑う。
生命とは如何に愚かであり、恩知らずなのか、と。
気付いた時にはもう遅いだろう。
暑くて悲しくて仕方ないよ。愚かな生命たちよ。
代償を払うのは私だ。君らでは無いのだ。
せめて、美しい宇宙を、我が家を返してくれないか。
私の理想郷を。