衣替え
もうすっかり寒くなっていた。
嫌な予感がして、いつもの森に駆け込む。
そこで友のエルフが木に寄り添って枯れかけていた。
「ああ、いかないで。どうして」
思わず涙を流しながら彼女の肩を揺さぶる。
「大丈夫。少し眠るだけ。生命の芽吹く季節が来たら、私たちまた会えるから」
「いやだ…まだここにいてよ…」
分かってた。日が経つに連れて彼女の髪の色が変わっていっていたから。
エルフはその名の通り森の精霊。
樹々が枯れれば彼女らも消える。
「少しの辛抱でしょ?ほら、森もヒトのように衣替えをするのよ」
彼女はクスッと笑った。自分はずっと泣いていた。
「君たちには一瞬なんだろうね…。冬なんて。分かった。待っているよ。」
森と人、次の衣替えの季節にまた会おう。
花の便りが来る日まで。
声が枯れるまで
愛と平和の聖女は、ずっと歌い続けている。
国のために。それが貴女の使命であるのだから。
この国の平穏は、秩序は彼女によって守られている。
その声に神秘を宿す彼女は、故に祭壇の女神像に声を捧げ続けなければならない。
それが、争いと償いを繰り返してきたこの国が、唯一安らかにあれる手段なのだ。
ならば、貴女の平穏はいつ訪れる?
顔も分からぬ民草、我らのために自らを犠牲にし、一筋の光が差し込むだけの暗い祭壇に囚われ続けるというのか。
貴女の声にしか用のない国王が、貴女の一切の自由を奪ったと知っていて、何故なお愛を歌い続けるのか。
貴女には、愛も平穏も許されないというのに。
もし貴女が人魚姫であったなら、私が悪を成して、貴女を陥れてでも自由に生きられる足を与えただろう。
愛を説き、平穏を生き、己の為に生きる傲慢の在り方を貴女に示しただろう。
しかし、貴女はそれでも歌い続けるのだろうな。
その声が枯れるまで。
始まりはいつも
また始まった。カミサマ同士の賭け事だ。
毎回毎回あんたらにはうんざりさせられるぜ。
そりゃあ、神の方が「悪魔」なわけだよな。
悪意を持って悪を為す我らより、
善意でもって悪を為すあんたらの方がよっぽどだ。
見ろ。おかげで人間たちが怯えて祈ってるぜ。
なんで元凶に祈ってんだろ。馬鹿じゃね。
始まりはいつもあんたらの愚かな善行だ。
地上に生きないくせに地上を収めようだなんてどうかしてる。
見てるだけじゃゲームの観戦と変わらないというのに。
○年後までに人間が善き心を持てば滅亡は免れるとか。
あんたらもその全能とやらを捨てて生きてみろ。
いつだって恵まれて光の中で生きるあんたらには、
闇でさえ正義だと崇められるお前らには、
足掻かなければお先真っ暗な人間どもの気持ちなんぞ分からないだろうよ。
その足掻く姿に惹かれてしまった俺を罰するほど、
あんたらは人間のことは見てないらしいからな。
すれ違い
すれ違いといえば、好きなゲームのキャラクターの設定にとても良いものがある。
兄弟の話なんだけど、有能で弟を愛してる兄と、意気地無しで兄に憧れてる弟のキャラがいる。
主人公と主に関わるのは弟。彼は貴族なのに自分の出身も分からない主人公に気さくで優しい性格をしている。
中世ヨーロッパの世界観で、騎士の家系だから、優しい性格で人を傷つけられない、剣の才能がない弟は家の恥だって罵られて生きてきたらしい。
弟は英雄である兄に憧れてて、でも兄は弟に自分のように生きてほしくなかった。
弟はそんな兄の気持ちに気付いていてなお英雄になりたかった。
弟は最後自分が無力だって自虐しながら死んでしまう。
大切なものを守った末路だった。
それは多分、兄の思い描いてた本当の英雄の姿だと思う。弟の死に様を兄が見てたら何て言ったんだろう。
最後までその兄弟はすれ違っていて、行動も別々、兄弟だって設定がなくても良いくらい関わってなかった。
伝わらなかったけど、互いを想い合っていて、時代が違えば良い兄弟だったんだろうなぁ。
一度でも仲良くしてる姿を見たかったなぁ。
秋晴れ
良い秋晴れの日だったから、神社を訪れた。
黄金の参道を歩きながら涼しい風を感じる。
遠い空を見上げると、顔に水が落ちてくる。
青い空の中、浄化するような水滴が降り注ぐ。
「雨か…?晴れているのになぜ…」
戸惑っていると、シャン、シャンと音が聞こえてくる。
何か見つかってはいけない気がして傍の木に隠れた。
様子を伺っていると、参進している集団が見えた。
「なんだ、結婚式か。」
そのまま様子を伺っていると、なにか違和感がした。
参進している集団にしっぽが生えている。
驚いて声もでなかった。
「狐の嫁入りか…初めて見たな。」
妙に冷静になってしまった。いつしか雨が止んでいた。
空を見上げて視線を戻すと、もう狐たちはいなかった。
新たな門出を祝う彼らの幸せを、自然に願わずにはいられなかった。