『空に溶ける』
怒りも悲しみも
苦しさも
全部全部
空に溶けてしまえばいい
溶けたものが
雲になって
雨となって
山や海や川に流れてしまえばいい
そうして
気が済むまで空を見たら
また前を向いてみよう
『どうしても…』
ヤバい。
腹が痛くなってきた。
牛乳一気飲みなんてするんじゃなかった。
授業が終わるまであと2分。
耐えろ俺。
あともう少し。
楽しいことを考えよう。
あと1分。
1分てこんなに長かったっけ?
先生頼むから早く終わらせてくれ。
鐘が鳴る。
よし、やった!やっと終わる!
と思ったのに…
のんびりした、ひやかすような声がした。
「先生ー、結婚するって本当ですかー?」
あ、そうなんだ?知らなかった。
いやいや、てか今?
今なの!?その質問!
どうしても今じゃなきゃダメだった!?
俺は!
どうしても!
今じゃなきゃダメなんだよーーー!
なんとか耐えきった俺。
自分で自分を誉めて上げたい。
『まって』
自転車で15分の距離。
年中さんの息子は走って帰りたいという。
えぇ…走りたいの?
自転車で15分ということは、歩くとだいたい30分。
しかも途中でアリとか見始めたりするよね?
ということはいったい時間はどれだけかかるの?
ちょっとまって。この後も予定があるのよ。
なるべく早く帰りたいの。
でもまって。
ここでダメと言ったら、私は子どもの主体性を潰すことになるのか?
答えを出せずに固まる私をよそに、息子はおかまいなしに自分の荷物を自転車のカゴに雑に放り込み、一目散に駆け出す。
あっ!まって。本当にまって。
この道は、少ないとはいえ車も通るのよ。
慌てて、雑に放り込まれた荷物たちを落ちないように、これまた雑に整えながら叫ぶ。
交差点止まって!お願いまって!
あぁ止まった。良かった、今のうちに追い付ける。
と思うのもつかの間、本人なりの左右確認をして、再び走り出す。
みるみるうちに遠くなる息子の背中。
5歳児の足は思いの外早い。
全速力で自転車をこぎ出す。
「まって」という言葉、100万回くらい言っていたような気がするあの頃。
『まだ知らない世界』
知らない世界に飛び込むのは怖い
知っている世界は安心
でも、かといって
今いる世界が本当に安全かはわからない
冷たい水にいるカエルは、温度を徐々に上げると変化に気付かず最後は死んでしまうという
もしかしたら今いる、知ってるはずの世界も
変わっているのかもしれない
新しい世界が安全かはわからない
その世界に入ってみなければ
危険かどうかもわからない
そしてその世界に入ったなら
ちょっと熱いと感じたとしても
慣れることができそうな熱さかどうか
試してみると良い
すぐにやめてしまわずに
体力のあるうちに
でも明らかにおかしいと感じる世界なら
それはやめたほうが良い
君子危うきに近寄らず
『手放す勇気』
手放す勇気、大事です。
割れてしまったお皿。
動かなくなった冷蔵庫。
カビの生えてしまったパン。
穴の空いた靴下。などなど。
これはもう簡単に捨てられる。だってもう使えないし食べられないし仕方ないから。
でも、ここからは捨てづらいけど手放すべきもの。
端がちょっと欠けているお皿。
―危ないし。
古くて冷えかたが微妙な、でも動いてる冷蔵庫。
―電気代高いはず。最近のは節電多い。
賞味期限切れだけど、見た目大丈夫そうな食品。
―大丈夫なうちにとっとと食べましょう。
くたびれてきたけど着られる下着。
―なんならもうあえて破る?そして雑巾かな。
もしくは、
なぜそれを選んだのか、今となっては自分でも謎な大きすぎるお皿。
―売ろうか。
一、二回使ったらすぐに飽きて使わなくなったホットサンドメーカー。
―売ろうか。
賞味期限が超長い、苦手な味のいただきものの高級缶詰。
―売ろうか。いや売れるのか?どなたか喜ぶ方に差し上げましょうか。
体型が変わってもう着られないのに、痩せたら着るかもと未練がましく取ってある昔の服。
―諦めましょう。
諦められたらもう捨ててる。
ああ、手放す勇気が欲しい。