NoName

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8/3/2023, 5:57:12 AM

『やあ、二日ぶりだね』

病室のドアを開けて、ベッドの上の彼女に話し掛ける。
少し青白い顔の彼女は僕を見て微笑む。

『…今日はあまり体調良くなさそうだね』

目を逸らしてゆっくりと頷く。
その様子を見て僕は話題を変えようとする。

『そうそう、今日はね…』



看護師1:「…あの男の子、また来てますね」

看護師2:「ああ、貴方は見慣れてないのね」

看護師1:「見慣れるわけないですよ。だって…」

「あの病室、誰も入院してないのに」

7/31/2023, 2:47:19 PM

夕暮れの病室に響く泣き声。
その様子に、俺はどんな表情をすればいいのか分からない。

『ごめんね…泣きたいのは君なのに…』

確かに泣きたい気持ちはある。
でもそれ以上に、俺は君に泣いてほしくなかった。
だがベッドに横たわり、呼吸器とたくさんの管に繋がれた
俺に出来ることなんて限られている。

そんな時、看護師が面会時間の終わりを知らせに来た。

君は椅子から立ち上がり、泣き腫らした目を誤魔化すように
明るい声色で“またね”と言った。

目と目は合わなかったが、俺は少ない力を振り絞って
肘から上を上げ、手を振った。

君の背中を完全に見送り、腕を下ろして天井を見上げた。

俺なんかの最期に、君に泣いてほしくないから。
だから、一人きりで、君の知らぬ間に。

「ま、たね…」

かすれ切ったその声は、俺の意識と共に消えていった。

7/28/2023, 1:55:41 PM

「…に、似合うか?」

初めて着る甚平に包まれて照れくさそうな彼。

『うん、よく似合ってるよ』

その愛らしい姿に全力の賛辞を送る。
周りにいる看護師達も同じように彼を褒める。

「ほ、褒めるのはいいから早く行こうぜ」

彼は顔を背けてそう言うと点滴を連れて歩き出す。
その姿をコンビニで買った手持ち花火を持って後を追う。

着いた先は病院の裏手にある小さな公園。
少し廃れたベンチに彼は腰掛ける。
地面に軽く刺したロウソクに火を着ける。
彼の方を見ると花火の種類に目を奪われていた。

『お待たせ、いつでも始められるよ』

そう声を掛け、二人きりの小さな夏のお祭りが始まった。

煙すらも愛おしく感じた、最初で最期の夏の夜。

6/29/2023, 1:11:42 PM

「どう?似合うかな?」

真っ白なワンピースが夏の青空に映える。
くるくると回る彼女と一緒にスカートもふわりと舞う。

『うん、よく似合ってるよ』

俺はそう言って自慢の一眼レフを構える。
どんな一瞬も撮り過ごさないように。

レンズ越しの彼女は夏の日差しにも負けず輝いている。
そんな彼女を無我夢中で撮った。

あれから数年、彼女はもう居ない。

俺はカメラに残る写真をずっと消せずにいた。

『…本当に、似合ってるよ』

線香の匂いに包まれながら、窓の外を見る。
あの夏の日も、大きな入道雲が背景にあった気がする。