最初は、憧れだった。
どこまでもストイックで、誰に対しても優しくて、真摯に対応してくれたから。
そうなりたいって思わせてくれたし、そうありたいと思ったから。
次は、失望だった。
どう言う訳か、失態や失敗が目立って仕方なくて。
憧れていた分、理想と現実の差はそれはもうスゴくて。
けれど、巡り巡って行き着いた感情は、やっぱり尊敬で。
なりたいと盲目的に憧れることはなくなったけれど、呆れるくらい失態を見せられてきたけれど。
尊敬できる部分はたくさんあって、やっぱりスゴいと思わせてくれた。
ーーーだから、その障害にだけはなりたくなかったんだ。
その一心で、何とも短絡的なことを仕出かしたなんて、今さら後悔してるけど。
それでも、願うことが許されるならーーー。
どうか、どうか、誰よりも”幸せに”。
不幸を安心、否定を安堵、不穏を平穏ととらえるあなたが、”幸せに”過ごせることを、願ってやまないんだ。
幸せに
いつだって気になるのはあの人で。
”何気ないふり”をして、様子を窺って。
今日は元気、ないな。
今日は、楽しそうだな。
今日は……。
そんなことばかりしてて、何だかつられてばっかりで。
自分のはずなのに、まるであの人みたいに気持ちが変わって。
ーーーでも、それだけなんだよなぁ。
だって、あの人の隣は、いつだって埋まってるんだから。
それが悔しいとか、哀しいとか、そういうのはない。
諦めたんじゃない。寄せるものが違うだけ。
そう言っても、なかなか納得してくれなくて困ったけどさ。
本当に、そうなんだから仕方ない。
ただ、そんな2人を”何気ないふり”をしながら見守っていけたら、十分に幸せだ。
何気ないふり
幸せな結末を、君は望んでる?
大体は、そうなんじゃないかなぁ?
でもね~、ボクにとっての幸せな結末は、どこにもないんだよ?
全てが上手くいって、ご都合主義にも程があるってくらいに作られた結末なんて意味がないし。
それに、君が望む”ハッピーエンド”は、ボクが罪を認めて、改心することかもしれないね。
けど、ざ~んねん! ボクがしたことは罪だけど、改心なんてしないから。
あいつらはそうなって当然だったんだよ。
……ま、あいつらが狙いだったから、それ以外には申し訳ないとは思ってるよ?
それだけはボクがしている唯一の後悔かな。あいつらにだっていなくなって泣いてくれる誰かは居ただろうし、ね。
その誰かを巻き込むことは本意じゃなかったんだけど、仕方ないよねぇ。
だって、原因はあいつらにあるんだから。あいつらさえちゃんとしてくれてたら、なんて、もう遅いんだけど。
ーーーね? 全部がうまく行くなんて、あり得ないでしょ?
幸せな結末は、結局は一部の為の結末でしかないんだよ。
違わないよね? だってボクはもう、”ハッピーエンド”になってるんだからさ。
ハッピーエンド
……あぁ、まただ。
ふと重なった視線を、思わず逸らす。
いつだって真っ直ぐで、真剣で、妥協を許さないそれが、煩わしいくせに心地よくて。
その度に、なんで自分なんだろうって、不思議で仕方なくて。
けど、失いたくないって思うくらいには、大切なもので。
ーーーらしくないな。
ため息混じりに取り出した煙草を止めたのは。
「……何?」
「相変わらず、ですね」
綺麗な指先と、耳障りのいい声。
「少しは頼ってください。それとも、頼りたくないくらい軟弱者に見えますか?」
射貫くような、真っ直ぐな視線に囚われる。
ーーーあぁ、やっぱり捕まった。
どこまでも真っ直ぐな眼で”見つめられると”、全部さらけ出したくなるから、頼れないって。
いつになったら言えるんだろう。
見つめられると
在るようで、無いようで、とても曖昧なくせに、間違いなく自分で。
無ければいいと思うのに、動力でもあるせいで切り離せない。
無ければきっと、誰もかも動けなくなるのかもしれない。
今見ている景色も、今聞いている音も、今感じている温度も。
全部、全部、そうなんだろうって思うだけで、やっぱり在るんじゃないかって思って。
だから、苦しくて、辛くて、逃げ出したくて。
在るかも解らないそれを疎ましく思うことさえ、きっと見透かされてる。
”My Heart”
それは自分の証明で、最も必要で不要な存在なのかも、しれない。
My Heart