アマンダへ
あなたのことがとても心配です。きっと世界が終わりに向かっていることをあなたは全身で感じ取ってしまっているのね。私が英語で書くことも出来るけど、でも、あなたがあなたでいられるように、私はこの言語で書き続けます。これは、私が生きた記録であり、あなたが生きた記録だから。
愛より
「私の日記帳」
Dear 愛
First, I'm sorry that writing in English. For, the thing is, I can't remember Japanese. I can't remember how I spoke or wrote Japanese. I can not believe that this is me even though I look mirror. My memories with you are about to go far away. It's just like a candle...
I'm scary. I'm so scary.
Sorry, I don't mean to embarrass you.
I'm sorry.
From Amanda
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(愛へ)
(まず最初に、英語で書いていることをお詫び申し上げます。あのね、実は、日本語が思い出せないの。自分がどうやって書いてたのか、どうやって話してたのか、思い出せないの。鏡を見たって、自分が自分じゃないみたい。あなたとの思い出が遠くへ消えていく気がする。蝋燭の火みたいに……)
(怖いの。すごく怖い。)
(ごめんなさいね、あなたを困らせたいわけじゃないのよ。)
(ごめんなさい。)
(アマンダより)
「鏡」
アマンダへ
お返事をどうもありがとう。郵便が機能しなくなってきているのかしら、アマンダからの手紙を受け取ったのは6月です。これを書いているのも。あなたがこれを読むのはいつになるのか分からないけれど、私は書き続けます。
シェルターの窓から海が見えます。気温が上がって、海面もどんどん上昇しています。夜の満潮時はとても怖いです。寝ている間に海に飲み込まれてしまいそう。でもね、こうやってあなたに手紙をかいているとすごく落ち着くの。ありがとう。
どうか届きますように。
愛より
「夜の海」
愛へ
あなたが最初の手紙をくれたときから、3か月以上がたちました。
そして私は不安になってきました、私の書く日本語は本当に私の思いと同じことを表せているのか。適切な言葉をえらべているのか。ことばの壁をのりこえたと思い込んでいただけで、やっぱり無理みたい。まあ、最初から決まってたことかもしれないけれど。
それでも、あなたと文通できることを私は楽しみにしています、sincerely. (日本語では、忘れてしまいました。辞書がひけないから、Sometime───こうやって困ってしまうの)
アマンダより
「最初から決まってた」
アマンダへ
お返事をどうもありがとう。元気そうでなによりです。
最近、とても暑いですね。今、日本は冬のはずなのに、夏日ばかりです。噂なんかじゃなく、本当に太陽が近づいている実感がします。あと何回、あなたと文通ができるのでしょうか。何も知らない私ができることは、ただあなたが穏やかに生きていられることを祈ることだけ。今すぐにでもそちらへ飛んで行きたい気分です。
どうかお体にお気をつけて。
愛より
「太陽」