とうの

Open App



ときどき、ふと思い出すんです。でもそれはいつも曖昧で、情景の片端がぼんやりと思い浮かぶ感じで。だからどんな情景かって言われると、上手く説明出来ないんですけれど……そうですね、草の生い茂った崖に私はいるんです。それで、目の前には鮮やかな色の硝子で出来た塔があります。何色もの色が合わさって、溶けるような日差しを負けじとはね返しています。中には大きな柱時計があって、ゆっくり振り子が揺れています。───この情景が、夢なのか記憶なのかは分かりません。でも時々、ああそういえば時計は11:59を指していたなとか、新たな情報を思い出すときもあります。不思議でしょう。本当、いつの記憶かしら、はやく思い出したいのに。何千年も生きているとこんなに記憶が曖昧になってきてしまうんです。


「遠い日の記憶」

7/17/2023, 11:37:52 AM