クリスタル
あぁ美しい
艶めく髪に、煌めく瞳、眩しい笑顔に、優しい声、可憐な背格好、何をするにも美しい所作
何もかもが美しい貴方は出会う者皆を魅了する
まるで輝く宝石のような君を見つめて、つい考えてしまう
僕はなんて個性がないのだろう
綺麗でもなければ醜くもないし、表情はまぁ良くも悪くも全部でる、瞳は綺麗な方かもな、声は好きじゃない、姿勢はちょっぴり猫背で、所作は最低限しか気にしてない
素直で隠さないけど晒しきらない透明と不透明との中間のような存在
君と比べるのもおこがましい
ある夜、コンビニ帰りに君を見かけた
月の光に照らされる君は一段と美しい
君は走る足を止めて僕に話しかけた
他愛のない会話をしたあとまた君は走り始めた
他愛のない会話を思い出して脳内で何度も繰り返す
幸せな帰り道、ふと気づいた
なぜ彼女はランニングをしていたのか
背格好だって所作だって彼女は努力していたんだ
当たり前なことに今更気づく
全部そうだ
宝石のような彼女はどこまでも宝石のようであった
削って磨いて削って磨いて理想を目指して努力をしていたのだ
おこがましいと逃げるのはやめよう
透明と不透明の間、曖昧な僕
せめて透明になろう
強い色がなくても、綺麗な造形じゃなくてもいい
粗は削って、素を磨いて
僕は目指そう、僕なりの水晶を
夏の匂い
忘れることないあの匂い
暑さに湿気に柑橘と君の照れくさい返事が混ざった忘れたくても忘れない僕を奪ったあの匂い
カーテン
「かくれんぼする人この指とーまれ!」
今日も始まる遊びの合図
まだ続く梅雨の中、聞き慣れたチャイムの音ともに、ぼくたちの時間が始まる
いつも元気な彼の合図にいつも通り皆が集まる
ぼくもあいつも気になるあの子も
「「「じゃんけん!ぽい!!!」」」
今日はぼくが鬼だ
「全員見つけてやる!、い〜ち!に〜!さ〜ん!…きゅう!じゅう!!」
「も〜い〜かい」
「「「も〜いいよ!」」」
1つの教室に何人もの友達が隠れている
一人また一人と見つけ、残るは気になるあの子だけ
突如、厚い雲と雲との間から一本の太く鋭い光が差し込んできた
一筋の光にさらされた教室、ぼくは見つけてしまった
カーテンにくるまるあの子の隠しきれない笑顔と無理矢理な静寂を
足を運ぶ
ぼくとあの子を隔てるは影を映す薄いカーテン1枚だけである
見つけてしまったものはしょうがない
さぁチャイムがなった
そこに残るのは笑顔のままのあの子とそれを讃える皆の声
空はこんなにも
今日、私は振られた
言葉が出ない
この感情をどう綴ればいい
苦しいのかも分からない
淋しいのかも分からない
彼は振り際に「君が悪いわけではない」と言っていたことは覚えている
じゃあ何が悪いんだと思う
彼の最後の優しさは私を苦しめていることを彼は知らないしもう知る由もない
文句を言ってやればよかった
最後まで可愛い私でいなければよかった
涙が枯れてくれない
前が見えない
どうしていいのか分からない
いつもは短い帰り道、今日は随分と長い
濁ってくすんでボロボロになった感情は私にですらその姿を見してくれない
そろそろ家かと顔をあげた時、ふと目に入る満月と星々
光と闇のコントラストで月の形がよく見える
なんで空はこんなにも素直で優しくないんだろう
どこにも行かないで
私を置いていかないで
想う貴方が恋しくて
貴方は「いつまでも一緒」だと言ってくれるけれど
私には、どうにもそれが信じきれない。
気が狂うほど好きだし、何よりも、他の何よりも信頼している貴方だけど、いや、だからこそその言葉を信じきれない。
そうだろうか、信じきれないという表現は間違っているのかもしれない。
私はどうにも怖いらしい。
信じて信じて信じて、その後に裏切られるのではないかという不安に。それは他者の死への恐怖と遜色ないほどだろう。いつ死ぬかも分からない、どう死ぬのかも分からない、苦しいのかも分からない、だが人は恐れる。確実に起こる死とは違うと思うものもいるだろうが、私にはその不確実がより怖い。むしろ死のほうが覚悟ができるとさえ思えてしまうほどだ。
私が好きになった貴方は何よりも自由であった。
己の限界などに縛られず本当にしたいことを見つけ、行動に移していた。不安定に揺らめくも決して消えない藍色の炎のような貴方を私は愛した。支えたいとも思った。
それなのに今の私はどうであろうか。支えるどころか貴方を届く範囲に留めてしまっている。好きだった揺らめく炎を囲い、守ったつもりであったのだろう。それが、きっかけというなの酸素を奪い、炎の勢いが増すことを止める行為であるにもかかわらず。
優しく私を守る彼の笑顔に息苦しさが見える。優しい彼はそれを見せていないつもりだし、今までの私には到底気づけなかっただろう。でも、考え直してしまったから。考え直せたから。
今考えると信じれなかったのも怖かったのも私が貴方を変えたからだったのかもしれない。
本当に好きな貴方をまた見たいから。
だから、わがままだけど
どこかに行って
貴方のいきたい貴方だけのどこかへ