薄暗い神無月
猫の目になって町を歩こう
東京タワーの股の下で落ち合えば
もう帰る場所はきっと無くなる
僕の生きる道は誰も通らない道で
色彩と音色だけが頼り
父も母もない
光も闇も また 無いわけだ
抵抗出来ない感情に支配された案山子のように
風のむく侭
気まぐれに
好きも嫌いも反転している
カメラとネイルとアイシャドウ
君の自慢するものをひっそり笑い
爪も髪も足首も僕のものなのだと満足する
日常は呪文の中で
限りなくブルーに近付いてゆくけれども
僕の感覚は多重に 君を剥している
東京タワーも7色だ
神様の居ない隙に
シナリオを書き換えて
君に手紙を渡したい
全身で振り上げ 浴びた透明な水 太陽の反射する
幻想のプールサイドで
碧い水底は 今は わたしの踝にまとわりついてくる
擽ったい 仔犬の舌のようだ
やわらかい羽にも見える 君の髪が風にそよぎ
窓を背に立っている
シルエットは薄ぼんやりと ヴェールをまとい
艶やかな流線を描き はにかんだ 微笑みをする
眩し過ぎて 目が離せない 君の薄い踝と 繋がれてゆく
先々は 何処か 懐かしく 何処か異質で
身体にほんのりと火を灯す
夏の予感
くるしいほどに
別離は 四季を消す
絵のように世界は白々しく聳え
街は 永遠のモノクローム
愛はきっと植物の緑にそっと宿るのだろう
潤うたびに水晶の花が咲くのだろう
消えた体温は 詩に姿を変え
君は幾度もやって来てくれるのだろう
数え切れない季節はそうやって
瞬間をファインダー越しに連れて来るし
居場所を見つけられない僕に
見えない花の香りを届けてくれる
誰かは 侘しいよと訴えるかもしれない
けれど 良く考えれば
そもそも 僕らの上陸したこの地上は
偽りの舞台(phantom)
偽りの愛(phony)
偽りの約束(phasmophobia)
に
縛られているのだ
無視してしまおう
結び付きは途切れはしない
ただ 別離のたびに
歌を歌えば良いらしい
やがてその声が聴こえる頃
街には鮮やかな花が咲き誇るだろう
その花は誰よりも美しい (phenom)