埃被ったアップライトピアノ
未知の妹だけが弾いている。
どうやら僕の詩、
隠し場所からこっそり盗んで
作曲したらしい。
時折 男になって ロックにもなるから
油断ならない。
「兄さんの詩はイミフが過ぎるけどなんとなく好きだよ」
なんて言われる。
黒鍵はブラックホール
白鍵は光だと言う
「じゃあお前の名前は?」
「うーん。今日は、ロザリー」
「....へえ」
時折透ける肌が逆光を受けてメロディが変調する
ふと思い立って立ち上がる
スタインウェイが震えている。
「兄さんが怒ってる」
多分眠いせい。
いつか死ぬ時にまた来るわ、
ときっと言う
「いつか」
(ほら...)
「月光、ちゃんとやりなよ」
「おー」(そっち)(なんで知ってるよ...)
背筋が凍り付いた。
ツイッターなんか見てたのかよ....。
「いやみんな見てるって。ツイッターくらい」
僕が鍵垢の理由。
「鍵なんて私が食べたよ」
黒い鍵盤が鳴った。
瞑想のようなワンシーン
演じる
無限の仮面に疲れた
培養させたい
ひとつに融けたい
そして
吸い上げたい 獣の体で
交差する一瞬を
捉えたい
触れれば 燃え盛る焔
圧倒的剣呑さを
持つあなた
存在しなければ
ただ過去を反芻していた
チェストの上の香油
庭に咲く名も無き薔薇
モノクロームの世界
次第に透き通る
滾りはじめる
舞台人たち(地上の)
嘔吐(えず)くほど
張り詰めていて下さい
気持ち悪くなるくらい
見ていてください
あなたのか弱さが
躊躇する仕草が
僕の静穏を 乱すまで
薬物を乱用するにも似た夏だな
蒸発しつづける水分
痙攣し続ける指先
イヤに湿気を帯びた肌
ぬるいソーダ水と化した身体
塩気と甘み
交互に吸い上げたい
赦しを乞う骨髄がわなないている
カメラに撮られる
その影響は
命令に背きたくなったからだ
リズムと
ビート
心拍数は跳ね上がる
カメラは射抜く
もう脱いじゃおうか
心理は鋭く問う
見られる事は好きだろう?
いいや精神は弊害を
取り除こうとする
見覚えのないリアリティに浸りたい
引きこもりでいいんだ
出逢いたくない
誰にも逢いたくない
17だった
限度を超えた過剰摂取
水が苦手で泡を探す
呼吸困難
兄弟も両親も 夜には死に
朝には何食わぬ顔して出て来る
人の数だけ世界は存在する
宇宙は問うんだ
孤独かどうか
孤独でいろよ
玉虫色した涙の味
覚えてるかい?
高校最後のインターハイ
あれから何年経ったろね
俺はDF お前はCF
ボール蹴ってればそれだけで
辛い事も忘れられたんだよ
スポーツはやっぱりいいな
詩はさ 自虐行為のようなもの
見なくていいもん凝視する
七色に光っていたあの頃のオレたち
今なんて心バキバキに折れながら
身体は労働に自動運転させている
だからさ、詩のボール蹴ってくれ
俺の下手なボールより
ゴール出来る様に
してやるよ
詩のフィールドで
クリスチーナでしょ?
秘密の廃園で
そこら辺に転がってた車椅子に乗って迷路を走ったね
何故か貴女はカラの鳥籠を大事そうに抱えてた
クリスチーナ
青灰色の空の日の事 閃光で僕らは盲目になり
夢中でしがみついたんだ
誰も来ない筈の庭に黒いバスがいきなり突っ込んで来て
僕らの学校は炎があがってさ
それからそれから
地面が避けたっけ 君は覚えてない?
僕も記憶は曖昧だけど
君があの時遊んだクリスチーナだって事だけは
わかったから充分なんだ
蝶は飛んでるし
花はこんなに咲き乱れてる
もっと言うと
思考は幻想だ
目はまやかしだ
耳を塞いだら ほら
君がいる
どうしてそんな単純な事に
気付かずにいたんだろう
赤ん坊の無垢を汚し続ける
セカイが嘆かわしいね
家に居ては追い出されるし
僕はまいごだったんだよ
だから僕らは彼処で出会ってさ
出会って
一緒に遊んだんだっけ
君がそこで微笑って立っている
そんなふうにして
小鳥のようでいいな
だから
だから
このままでいて