Rara

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6/26/2024, 12:52:18 PM

君と最後に会った日



先輩が卒業してから3ヶ月になる。

私は先輩のことが好きだった。あまり真っ直ぐな「好き」ではない。頑張ってもなかなか報われない、勉強も上手くいかない、運の悪い先輩が、可哀想で可愛くて可愛くて。でも頑張り屋なところは本当に尊敬していたと思う。軽くて薄っぺらい、誰にでも向けるような「好き」なのかも。

先輩は絵を描くのが好きなようで、ときどきSNSに絵を投稿していた。正直上手くはなかったけど、その独特な雰囲気と世界観が好きだった。私も絵を描くのは好きなので、先輩の持つ不思議な世界観は本当に羨ましかった。

とにかく好きだったけど、卒業して離れてみたら意外と寂しくはなかった。本当の心からの「好き」ではなかったのかも。私は落ち込むこともなく生きている。

いつの間にか、先輩のSNSが非表示になっていた。

最後に会ったのはいつだっけ。

ーーー

先輩に会った。偶然。いつも通り先輩は優しかった。最近どうとか元気とか他愛もない話をして、思い出話を少しして。そんなこともあったな、忘れてた。
また今度、なんて社交辞令を交わして別れる。

私のこと覚えててくれたんだな。ちょっと嬉しい。
今も変わらず頑張ってるんだろうな。すごいな。
そういえば聞き忘れたな、絵のこと。思い出さなかった。

やっぱり明日からも、寂しくはないんだと思う。

でも最後に会ったのは今日だ。今日の会話はまだ覚えていて、まだ忘れていない。

先輩、まだ絵が好きなのかな。
私は、まだ絵が好きだ。

SNSもスケッチブックも今は開く気分じゃない。
でも私はやっぱり絵が好きで、明日になったら描くだろう。
やっぱり頑張り屋な先輩が好きで、忘れることはないんだろう。
心のどこかで覚えている、どうでもいい「好き」。そういうものに人は作られているのか。私はどうして絵を描くのか。

心の奥底にいる誰か、私に絵を描かせる誰か。

君と最後に会ったのはいつだろう。

6/22/2024, 10:49:50 AM

日常



学校に行く途中、道端に目玉と肉塊が生えている。持参したバールのようなもので叩き潰す。戦利品を拾う。しばらく歩くと巨大な酸スライムが道を溶かしていて、流石に勝ち目がないので迂回する。
化け物が街中に溢れだしてからどれくらい経ったのか…こんな光景はもはや、我々にとってごく普通の日常である。

戦いを挑まなければ危険はないのだが、なにしろ奴らは倒すと戦利品を落とすのだ。不用意に戦うなと大人達は言うが、ほとんどの金欠学生は通学の片手間に戦っている。俺もそのうちの1人だ。なんだかんだ目玉と肉塊と芋虫ぐらいなら簡単に倒せる。ちなみに、蝶と花にだけは挑まないほうがいい。

「おっ、今日も大漁じゃん。それ目玉のやつだろ?」
「そうそう。小さいけど肉塊もある」
「2体も狩れるなんて強運だな、こっちは蝶しかいなかった」
「どんまい」

友人と雑談を交わし、席につく。退屈な授業が始まる。

1日が終わったら戦利品を換金してもらおう。2000円ぐらい貰えたらいいけど、まぁ小さいし無理だろう。換金所までの道にもう一体ぐらいいたらいいな…

そんなことを考えながら居眠りしてしまい、教師に怒られる。友人に笑われた。お前だって居眠り常習犯だろ。

抜き打ちテスト赤点。窓の外の芋虫。増える戦利品。退屈な午後の授業。掃除。帰宅。換金所に寄るの忘れた。

いたっていつも通りの充実した日常である。

6/21/2024, 11:01:38 AM

好きな色



私には好きなものがない。言い換えれば、全てのものが好きだ。
周りに合わせたり、その日の気分によったり。部屋には、なんの関係もないものが大量に溢れている。

何をしても楽しいし、何をしても楽しくない。毎日の「自分」がまちまちで、一貫した「好き」がない。好きなものを急に聞かれたら困る。

「昔からずっとこれが好きで〜」なんて、1度は言ってみたいものだ。一貫して好きなものがあるのは羨ましい。私なんて、いつも違うことをしているから毎回中途半端になってしまう。ずっと、何か1つのことを極めてみたいと思っている。

でも好きな色はピンクと水色だ。昔からずっと。色に関しては極めるもなにもないが、それだけは一貫している。

あぁでも、やっぱり紫も好きだ。パステルカラーは全部好きかもしれない。どんな色にも良さはある。どんな色でも好きだ…また「好き」が失われた。

私は今までもこれからも中途半端で、これから次々と「好き」が消えていくのだろう。この世の全てが好きなのと、この世の全てに興味がないのとでは、なにが違うのだろうか。

ただ1人を一生愛するなんて、きっとできないんだろうな。

6/20/2024, 11:14:03 PM

あなたがいたから



あなたがいたから頑張れた。
そんな言葉、ただの綺麗事だと思ってた。

私には、一緒に頑張ってくれる人なんか誰もいなかった。
一緒に寄り添ってくれる人なんか誰もいなかった。
ずっと孤独で、全てを諦めていて、しかし心の奥底ではまだ見ぬ「あなた」を探している。苦しみと渇望。そして絶望。
「あなた」に出会えたら、私の最後のピースが埋まるのだろう。頑張れた、あなたのおかげで、なんていう日が、いつか私にも。

「結局なにも頑張れてないねぇ。でも、あなたがいたからここまで来れたんだよ。」

「私も、あなたがいたから勇気が出た」

「「一緒に死のう」」

2人の手首を固く結ぶ赤いリボン。ずっと一緒の証。

「誰の役に立ったことがなくても」

「最初から最後までずっと死にたくても」

「「あなたがいたから幸せだった」」

世界一不幸で幸せな2人は、笑顔で永遠にこの世から去った。

6/19/2024, 11:17:56 AM

相合傘



今日は相合傘をしているカップルが多い気がする。急に降ってきたからだろうか、ここが都市部だからだろうか、ここ1時間だけでもだいぶ見た。多い。あぁ、あいつらなんて小さい傘でイチャイチャと…やめろやめろ!見たくない!

…俺がここまで相合傘に反応しているのは、完全に羨ましくて嫉妬しているだけだ。俺には好きな人がいて、いつか付き合いたいとかデートしたいとか相合傘してみたいとか思っていた。勇気を振り絞った俺の幻想は、彼女の「ごめん無理」の一言で打ち砕かれた。
言いふらされていやしないか…気が重くて仕方ない。もしかしたら既に全女子に知れ渡っていて、二度と女子が近寄ってこなくなるかもしれない。

相合傘してみたかったなぁ…1人で入る傘が寂しい。いや傘なんて本来1人用だし。別にいいし。

鬱々と考えながら歩いていると、雨が止んできた。もう傘はささなくていいだろう。ふと上を見上げると虹が出ていた。

…虹だ!綺麗だ!雨上がりに上を向いた者の特権だ!

落ち込んでばかりもいられない。スマホを見るために下を向くカップルを尻目に、1人で虹を堪能する。虹の1つで気分が晴れるのも単純すぎるが…そもそも晴れきってはいないが。虹なんてわざわざ見上げる物好きは少ないので、謎の優越感に浸る。

しばらくすると虹はすっかり消えてしまい、憂いのどれか1つぐらいも消えたような心地だった。

なんとなく、帰りにたい焼きを買った。

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