君と最後に会った日
先輩が卒業してから3ヶ月になる。
私は先輩のことが好きだった。あまり真っ直ぐな「好き」ではない。頑張ってもなかなか報われない、勉強も上手くいかない、運の悪い先輩が、可哀想で可愛くて可愛くて。でも頑張り屋なところは本当に尊敬していたと思う。軽くて薄っぺらい、誰にでも向けるような「好き」なのかも。
先輩は絵を描くのが好きなようで、ときどきSNSに絵を投稿していた。正直上手くはなかったけど、その独特な雰囲気と世界観が好きだった。私も絵を描くのは好きなので、先輩の持つ不思議な世界観は本当に羨ましかった。
とにかく好きだったけど、卒業して離れてみたら意外と寂しくはなかった。本当の心からの「好き」ではなかったのかも。私は落ち込むこともなく生きている。
いつの間にか、先輩のSNSが非表示になっていた。
最後に会ったのはいつだっけ。
ーーー
先輩に会った。偶然。いつも通り先輩は優しかった。最近どうとか元気とか他愛もない話をして、思い出話を少しして。そんなこともあったな、忘れてた。
また今度、なんて社交辞令を交わして別れる。
私のこと覚えててくれたんだな。ちょっと嬉しい。
今も変わらず頑張ってるんだろうな。すごいな。
そういえば聞き忘れたな、絵のこと。思い出さなかった。
やっぱり明日からも、寂しくはないんだと思う。
でも最後に会ったのは今日だ。今日の会話はまだ覚えていて、まだ忘れていない。
先輩、まだ絵が好きなのかな。
私は、まだ絵が好きだ。
SNSもスケッチブックも今は開く気分じゃない。
でも私はやっぱり絵が好きで、明日になったら描くだろう。
やっぱり頑張り屋な先輩が好きで、忘れることはないんだろう。
心のどこかで覚えている、どうでもいい「好き」。そういうものに人は作られているのか。私はどうして絵を描くのか。
心の奥底にいる誰か、私に絵を描かせる誰か。
君と最後に会ったのはいつだろう。
6/26/2024, 12:52:18 PM