現実逃避
何が悪い訳でもないし、別に不幸自慢でもないけど、時々自分に自信がなくなって、何もかもが嫌になる時がある。それは、いじめを受けているとか、家庭の事情であったり、進路の事だったりと、色々と悩む時期ではあるけど。あるけど、どことなく消えたいというか、死にたいとはちょっと違う感情になるんだよね。そっと、自分が元からいなかったようにしたいのだ。
だから、現実から目を背けて、逃げている。消えたいと思う心を違う何かで覆って、隠す。現実逃避している時だけ、何も考えないで気楽に生きていくことが出来る。でも、ずっと現実逃避ばかりしていると、自分は置いていかれてしまうのだ。どこの誰かに、友達に。んで、生まれたのが「無理をして、ニコニコと優しい好青年で居続けること」だ。
現実逃避は程々に、自分のペースで生きて行くなんて我儘過ぎると怒られてしまうのではないか。
君は今
春、それは出会いと別れの時。社会人八年目、ふと高校の時のあいつを思い出した。丁度10数年前の仲間。
昔は、俺がギターであいつがボーカルでユニットを組んでいた。やって3 、4年目位でそこそこ売れだして波に乗っていた時、あいつが急に音信不通になったんだ。その後、メッセージで「ごめん、辞める」とだけ送ってそれからもう何もしていない。夢が叶って、その代わりに仲間と職を失った。
_____ねぇ、君は今何をしているの?ちゃんとご飯食べてる?幸せな生活送れてる?
物憂げな空
「…はぁ。」
溜め息が1つ、雨に濡れたコンクリートに反響した。
今日は、何もかも上手くいかない。課題を家に忘れて怖いと有名な先生にキレられ、雨で寝癖は酷くなり、色々重なってイライラしていたせいもあったのか大切な親友を傷つけてしまった。
雨が降っていて気温が低いにも関わらず、半袖で教室を飛び出してきた。心臓がぎゅうっと鷲掴みされる様な痛みに、渡り廊下の床にしゃがみ込む。
俯いた拍子にビシャビシャに濡れた髪から雨水が滴って、ズボンを濡らしていく。ベタっと体に張り付いた半袖シャツが気持ち悪い。
いっそ、このまま居なくなれたらどれだけ楽だろうか。こんな最低な俺に、今手を差し伸べてくれる人はいないのか、と自虐的な乾いた笑いがこぼれた。
ふと、頭に容赦なく降りつけていた雨がすっと止んだのがわかった。顔を上げて前を見ると、未だにどんよりとした曇天から雨が降り注いでいた。
「ねえ、こんなとこで何してんのさ。風邪ひいたらどうすんの。」
いつも明るい声は、低く優しい声に変わっていた。右を見ると、傘を俺の方に向けながら目線を合わせてしゃがんでいる親友が居た。
「…何しに来たの。」
せっかく心配しに来てくれたのに、目線も合わせず冷たく返してしまう自分が腹立たしい。さっきよりも深く俯いて目に滲んだ涙を隠す。彼奴は、背中に手を当てて優しく摩ってくれた。涙腺崩壊を加速させるその動きが、今は心地よく感じる。
流れ出る涙と口から漏れて止まらない嗚咽はそのままに、見上げるは、、、
手ぶくろ
同性愛(ボーイズラブ、BL)の要素があります。誤字脱字の確認はしておりません。その2つに注意してお読みください。
「あ、」
しまった、朝随分とバタバタしていたせいでてぶくろを家に忘れてしまったようだ。遅刻ギリギリだったため、全く気づかなかった。ふっ、息を吹くだけで白い雲が溢れ出す、それだけでどれだけ外が寒いかわかるだろう。手袋やマフラーは手放せない季節だ。
はあ、と深くため息を着く。最寄りの駅まで若干距離があるから、寒気の中に暖かい手をそのままにして歩くと、あっという間に真っ赤になって霜焼けになってしまう。そんなことを考えていたら、時間を忘れて思いに耽ってしまったようで教室には誰もいなかった。帰りはバスで帰るし、都会の方だから結構な頻度でバスが来るから時間には余裕がある。
重たい鞄を背負って、足早に教室を出た。外までは行かないがひんやりとした廊下に小さく身震いする。誰一人通らない自分の吐く息と新しめの上靴が立てる音だけが響いている。そのどこか寂しい音になぜか涙がこぼれそうになる。
たたたっと階段を駆け抜けて下駄箱から靴を取り出す。踵が踏み潰されて少し変形してしまったスニーカー。気に入りすぎて少し黒くくすんでいた。
扉を開けると、ひゅー、と口笛のような風が吹いた。肌をつんざくような寒さに耐えきれず、一瞬体が怯んでしまった。
その時、前に人影があった。知ってる人かな、と少し覗いてみる。
「あ、遅かったね。大丈夫?心配したんだけど。」
思わずは?と声が出た。そこにいた男は俺の彼氏、、恋人だった。俺もれっきとした男だが、俺が彼奴に一目惚れでアプローチを続けた結果、相手から告白してもらったのだ。
「え、なんで蒼空がそこにいるの!寒かったでしょ、俺遅かったよね。」
勢いよく飛びついて、蒼空を責めた。寒い中一人で、鼻を赤くして待つなんて風邪なんて引いたらどうするんだ。ぷく、と可愛らしく頬を膨らまして睨みつける。どうせ可愛くなんてないのだろうけど。
「え、何その可愛い顔、めっちゃいい。」
ぽぽぽ、と顔に熱が集まっていく。
「っ~!!」
ぎゅ、と抱き寄せられる。長い時間外で待っていたはずなのに、彼の胸は暖かかった。少しの沈黙の後、蒼空が口を開く。
「ねえ、いつもの手袋は?なんかもふもふがなくて寂しい。」
「それが忘れちゃって…」
「えぇ!寒かったでしょ!絶対持ってきなって言ったじゃん!」
「ごめん!今日バタバタしてて、持ってくるの忘れちゃった!」
抱きついたままなのも忘れて話に夢中になっていた。ぱっと蒼空から離れる。、、否、離れようとした。
話さないとでも言うようにぎゅっとさらに強く抱き締めてくる。それが何故か心地よくて、胸に頭を埋めた。
しばらくそうした後、そろそろ帰ろっか、と手を繋いで歩き出す。あっ!となにか思いついたように彼が振り向く。
「ねえねえ、手袋、1個貸したげる!もう片っぽは、手、繋ぐから暖かいよね。」
最後の方は少し小さく萎んでいった。蒼空の顔はほんのり赤い。その赤みは、寒さからなのか、それともあの言葉のせいなのか、俺には分からない。
お久しぶりです。今回は上手く行きました。メリークリスマス!(過ぎたけど)
何でもないフリ
俺は、知っていた。
あいつがもう、俺のことが嫌いなことも。裏でありもしない噂をばらまいていることも。
全部、全部、知っていた。
_______でも、でも、俺はまだ知らないフリをした。
何度も朝が来て、夜が来る。
あっちがまだ、何でもないフリを続けるなら、俺だってまだ何でもないフリを続けよう。
止めどなく流れてくる涙も、知らないもん。