私だけの本棚、
私だけのティーカップ、
私だけの洋室。
子供の頃、
そう言って憧れたショーウィンドウの向こう側。
そんな憧れは等に忘れてしまった筈なのに、
私は真っ暗なオフィスの中、
光を放つパソコンの前で泣き出してしまった。
私だけという特別を忘れないように。
ずっと昔の記憶力。
忘れられないの、ずっと。
別に貴方を好いていた訳ではないのに、
困ったものね。
自分の気持ちを整理するためにも
したためることにするわ。
あの暑い夏の日。
私の被る麦わら帽子が風に拐われて
貴方の手の中に入ったのよ。
こう思うと、
本当に忘れられていないのね。私。
それから時々お話をするようになって、
友人になったのよね。少し懐かしく感じるわ。
ねぇ、何処に行ってしまったの?
貴方は優しいから私に嘘をついたのでしょう?
また、暑い夏の日に帽子を飛ばせば
貴方が拾ってくれるのかしら。
夏は少しノスタルジックに浸ってみても
良いのではないでしょうか。
ベランダから空を見上げる。
ふわふわとした雲が宙を漂っている。
子供の頃は食べたい、
なんて言っていた気がする。
本当は水蒸気と氷の粒だって
自由研究で知ったんだっけ。
あれから色々なことを知ったなぁ。
ふと、下を見ると誰かが此方を見上げている。
「ねぇ~、今日、遊ぶんじゃないの~?」
蝉の声を掻き分けて私の耳へと届いた。
あぁ、そうか。
そんな約束もしていた気がする。
「まあ、もう少し先で良いか。」
私はその場でそう呟くと冷たい部屋に戻った。
空を見ることは素敵なことです。
空を飛ぶのは
魔法使い以外、難しいことですよ。
拝啓、僕の彼女様へ
もう、終わりにしよう。
君は何時もキラキラしていて、
僕の憧れの人だった。
人生の中で一番勇気を出して話し掛けたあの日。
貴女のキラキラが
僕にも移った気がして嬉しくなった。
君の視界に写れただけで十分だったのに、
人間は欲張ってしまうのだなと思う。
告白をふたつ返事で返してくれたのは
驚いたけど嬉しかった。ありがとう。
貴女との日々はすべてがキラキラしていて、
僕には少し眩しかったみたいです。
だから、もうおしまい。
病気の僕が死んだことは忘れて、
もっと素敵な人と出会ってください。
貴女が僕のことを忘れられますように。
僕より
「あーちゃん!手!」
「も~!早いって!しゅうくん。」
隣に住んでいるしゅうくんは私と仲が良いんだ。
幼なじみって言うんだってママが言ってた。
これからもずっと一緒にいられたら
楽しいだろうなぁ~。
「あーちゃん!聞いてる?」
「う、うん!」
私は手を握り返した。
「婆さ……、あーちゃん。お手をどうぞ。」
「あらあら、ふふ。ありがとうねぇ。
しゅうくん。」
そんな呼び名で呼んでいたこともあったねぇ。
もうお互いに歳もとって少し照れ臭いけど……、ずっと楽しませてもらったよ。
お爺さん。
「婆さんは考え事が好きだねぇ。」
「ふふ、お爺さんのことを考えていたのよ。」
私は手を握り返した。
私は子供の頃からこの掌が好きだった。