鏡
今日も美しいね。
全てをうつす硝子。
リッピアの形をした枠。
全てが美しかった。
触れるとすぐわれてしまいそうで。
ヒビが入ってしまいそうで。
触れたくても触れることができない。
僕をうつすのになぜ君は触れさせてくれないのだろうか。
今日も僕をうつし続ける。
#23
いつまでも捨てられないもの
そっと私を見つめる深い青色。
透き通るような肌。
フリルがついた可愛らしいドレス。
そして、太陽の光を集めたかのような金髪。
そんな貴方は品があるけれど、どこか可愛らしかった。
雪が降ったら貴方に手袋をつけた。
雷の時は、貴方のベッドの中に潜った。
どれも捨てられない淡い思い出。
貴方とお茶会を開いた公園に貴方を置いて帰ってしまった時も必死に探した。
それくらい貴方が大事なの。
お父様やお母様は、薄汚れた貴方よりも綺麗な子の方が良いと言って、新しい子を私に勧めてくるの。
でも、やっぱり貴方じゃないと私じゃないの。
ずっと手離したくない。
私が歳を老いても、貴方は磨けば美しくなる。
私の代わりに生き続けて欲しい。
だって貴方は私なのだから。
だれも、いつまでも捨てることが出来ないわ。
#22
誇らしさ
私の誇らしさとは一体なんでしょう。
真っ直ぐと自由に伸びている羽でしょうか。
それとも光り輝く羽でしょうか。
どれも大切な私の一部ですが、
「貴方の誇らしさとは何ですか。」
と聞かれると、「私の羽です。」とは言えないのです。
では、私の誇らしさとはなんでしょう。
この小さな体で世界中を飛び回ることでしょうか。
魔法を使って自然を喜ばせることでしょうか。
どれも得意な事ですが、
誇らしさとは少し違います。
私の誇らしさとは、誇ることがない事です。
そして、私がこれからするべき事は誇ることを探すことです。
誇る事がないと誇らしさもうまれないのですから。
貴方の誇らしさとは。
#21
夜の海
静かな波の音が私の心を宥めるように。
落ち着かせるように。
何も感じさせないように。
砂が煌めき私に触れて欲しいという。
その上にふわりと座ると波が近づく。
波も私に触れて欲しくて水で足を覆う。
手で撫でてみる。
照れたのか恥ずかしかったのか、それとも嫌だったのか分からないが少し波が引いた。
宛名のないシーグラスが月光でぼやけるように光る。
波が私に向かって押し寄せる。
こっちにおいで。と言わんばかりに。
従わせるように。
こっちに、こっちに、と。
静かな波の音が私の全てを覆うように。
こもるように。
光が通らないように。
溶け込むように。
夜の海にもっと溶け込むように。
#20
自転車に乗って
「ベラ。そこに座って僕にしっかり掴まるんだよ。」
「ヒューイ。私、少しだけ怖いわ。」
「大丈夫だよ。しっかり捕まっておけば怖さなんてなくなるよ。」
「そうね。」
ヒマワリ畑の間にただずっと続く道を君と走る。
夕日が僕たちを照らしヒマワリに負けないようにしてくれる。
やわらかい風が僕たちを撫でる。
「ヒューイ。私、ヒマワリが一番好きな花なの。」
「ベラとヒマワリは物凄く合うよ。でも、ベラはヒマワリよりも美しい。」
少し照れながら笑う君は、本当にヒマワリよりも際立って美しかった。
「ありがとう。ヒューイ。」
自転車に乗って走り続ける。ただこの道を。
やわらかい風が撫ですぎて君は少し舞う。
「もう少しスピードを上げようか。」
「ヒューイ。私もっと空と近くなっちゃうよ。」
「大丈夫さ。ベラ。君の夏は今ここにある。このヒマワリ畑で君は一番美しい。」
「ヒューイ。夕日が眩しいね。」
「綺麗だね。」
来年はもっと多くの君と一つの夏を過ごしたい。
また自転車に乗ろう。
#19