心の健康
貴方が怪我をしたら私が手当をした。
手を怪我した時は、川の上流で手を冷やした。
揺らぐ透明な液体の中に少しだけ赤が広がる。
混ざった液体を手ですくう。
喉が乾いたので液体を飲む。
その瞬間心が揺さぶられた感覚に落ちる。
水分が足りない私にはこの液体が必要だった。
水分が足りない中これからどうすれば生きれるかを考えるうちに心が穢れていった。
それでも諦めずに貴方を手当し続けた。
その代償に私の心を貴方に手当をしてもらった。
お互いがおたがいに手当し合う。
でも、貴方が混ざった少し赤い不透明な液体を飲むことが私に1番よく効く治療でした。
もっと飲んでいたい。
少し苦いが飲んでいたい。
心の健康維持のために。
#18
鐘の音
やわらかみのある祝福の鐘の音が聞こえる。
我が国にお姫様が生まれました、
鮮やかな青色の瞳で、陽の光が集まったかのような金髪。
それはもう全てが美しかったのです。
鐘が年をとるのと同じようにお姫様は成長していく中で好きな物を見つけました。それは、自分の城にある鐘でした。
鐘は国民に栄光の鐘と呼ばれていた。
鐘の凛々しくやわらかさがあり、でも少し重みのある音がお姫様にはとても興味をそそられたのです。
栄光の鐘と呼ばれるのと同時に奇跡の子とも呼ばれている方がいました。
栄光の鐘が鳴ったその瞬間に生まれる子は「奇跡の子」だと古く昔から言い伝えられていました。
その奇跡の子がお姫様なのです。
栄光の鐘が鳴るのは三年に一度でした。
奇跡の子が生まれてから6回目の鐘の音が鳴ると奇跡の子は国民の栄光を背負い、鐘の下で旅立つというしきたりがありました。
青い瞳が暗くなる瞬間まであの鐘の音と共に私自身を見守ろうと決めました。
わたくしの最期は大好きなあの音に包まれながら終われることにとても感動しています。
鐘が鳴り終わるその瞬間まで。
#17
つまらないことでも
朝2時にサンダルを履き、一本しかない道を歩く。
波を引く音が耳に響いている。それがなんだか心地よい。
「アーサー。君はなんで毎朝2時に海に行くんだい?」
「レオ。海を見に行くんじゃないんだ。僕は砂浜に会いにいくんだよ。」
「砂浜に行ったってなんもないじゃないか。海を見に行くなら分かるが、砂浜になんの用があるんだい?」
「レオにとって、孤独とはなんだろうか。」
「寂しいものだと思う。」
「そういうことなんだ。砂浜は一人なんだよ。だから僕が毎朝会いに行かなければ孤独になってしまう。」
「砂浜は人では無い。アーサー。そんなつまらないことをするよりも僕と一緒にサイクリングに行こう。」
「いいや、サイクリングなんてもっとつまらない。それよりも毎朝、砂浜に行くと僕に砂を一粒くれるんだ。それを集めることが楽しいんだ。」
「アーサーのことはよく知っているつもりだけれど、これに関してはよく分からないよ。つまらないのに。」
「レオにもいつか分かるよ。」
海岸を歩く度に砂が僕に話しかける。
孤独とは辛いものだ。誰の温もりも感じられない。僕には耐えれないものだ。
「レオ。見てよ、瓶いっぱいに砂が埋まったよ。」
「アーサー。孤独に呑まれるとどんな気分になると思う?」
「道が分からなくなるんじゃないかな。」
「アーサー。それは瓶じゃない。君の手だ。」
「レオ。あの時君とサイクリングに出かけていればこうはならなかったのだろうか。」
「アーサー。砂を集めることはつまらないことでは無いのかもしれない。だが、僕と一緒にいることもつまらなくはないはずだよ。」
「そうだね。つまらなくないな。」
「アーサー。つまらないことでも共に時間を過ごさなければ君は呑み込まれるんだよ。」
「つまらないことでもね、それが大切だったりするんだ。」
「そうだね。案外楽しかったりする。」
波にさらわれる感覚が分かる。
「つまらないことでも。」
#16
病室
ほんわか白い光が何もかも透き通す白いカーテンを照らす。
機械音が一定的に鳴り続ける。
すぐ側に目をやるとひまわりが太陽の方向を向いて咲いていて、1枚1枚の花弁が真っ直ぐと伸びている。
機械音がすこし早くなる。
ひまわりの花弁が1枚落ちる。
機械音がまた早くなる。
また
また
また
最期は計り知れないほどに早くなる。
ひまわりの花弁が顔に落ちる。
最期はひまわりのように真っ直ぐ誰かを見つめていたかった。
#15
お祭り
弱くでも、強い色の光をもつそれは、
提灯でした。
7月28日の今日、私は生まれました。
1つの生命が始まると共に光が灯った。
真夏と呼ばれるこの時期は、各地域でお祭りが開かれ、町はいっそう盛り上がっていた。
私はお祭りが好きではないので、毎年家に留まる。
子供や若い者の楽しむ声は、私の耳を痛める。
太鼓が鳴り響き、下駄の音がカランコロンと鳴る。
私の誕生日は、私が主役なんです。
そんなに目立たれると誰も私に気付かない。
友人も少なくはないけれど、皆、それぞれの物語がある。
花火と共に人々の歓声が上がる。
花火だけが私を祝う。
静かに鳴る私は、花火に手を伸ばしました。
来年はお祭りに行ってみましょうか。
#14
追記、誕生日おめでとう。自分。