今一番欲しいもの
あれが欲しい、これが欲しい。
欲求を態度で示せば何だって手に入りました。
猫のように人を惹きつける目、手を入れれば透き通ってしまうような肌、見れば触れたくなってしまう唇。
そんな貴方に見惚れ、貴方が欲しかった。
でも、私には手に入れることが出来ない。
貴方の欲求を満たしても貴方はすぐ他の猫の元に上品に尻尾を伸ばし歩いて行ってしまう。
そして、リブレ オーデパルファムの香水を振りまいている猫に取り入ってしまう。
ですが、私にはその香水は似合いません。
ミスディオール ブルーミング ブーケが似合う私には似合わないのです。
貴方に似合う猫は、私ではないのですか。
私は、純粋な愛が欲しいのです。
けれど、貴方が欲しているものは、ずっと尻尾を振り求愛を求める自分に相手をしてくれる猫なんですね。
貴方が今一番欲しいものは。
#13
私だけ
私だけがいいの。
サファイアの表面がぎらりと光る。
それの周りにはヒトツバタゴを形どって硝子で作られたアーチがかかる。
私だけがいいの。
それを纏うのは私だけがいいの。
それが似合うのは私だけがいいの。
私だけ。
私だけがいいの。
美しいそれを身にまとって快楽にしたるのは、私だけがいいの。
水面に指を少しだけ触れさせるのも私だけがいいの。
美しさを独占して噛み締めてみて。
誰にもこの気持ちをあげたくないはずなの。
私だけがいいの。
私だけ。
#12
子供の頃は
全て、自分が描いた理想的な人生だった。
幼い頃から、自分は周りと少し違かった。
歯車が合わなかった。
白くて、真っ白で、静かなキャンバスに描いた理想的な僕の人生図は、黒かった。
よく、夢がないと両親には言われていた。
子供の頃は理想的な人生を描いていただけだった。
でも、今は違う。
理想的な人生は叶うわけがない。
そう分かっていても、描いてしまう。
止められないんだ。
子供の頃と違って、結末が分かっていても、理想的な人生図をまだ求め続けてしまう。
子供の頃から変わらないな。僕は。
#11
落下
ああ、どこまでも落ちていく。
このまま落ちて終わってしまうのだろうか。
それとも、ずっと永遠に落ち続けるのだろうか。
空はずっと続いて、私からまとわりつくのをやめてくれないのだろうか。
手で触れようとしても、落ちてるので掴めない。
そもそも物なんてない。
ああ、まだ落ち続ける。
私が落ち終われば白い花が赤く彩やかに光るだろう。
ああ、先が見えない。
まだ落ち続ける。
いつ落ち終わるのだろうか。
一瞬で終わってしまいたい。
#10
好きな本
古びたページの匂い。
黄ばんだ小口。
折れ曲がった帯。
少しふにゃついている角。
大好きな本。
僕の部屋の床には本が積み重なっているタワーがいくつもある。
その積み重なっている本はどれも大切な本で僕の宝物。
でも、本は僕一人に愛して欲しいから、早くまた開いて。とお願いをしてくる。
僕は本が好きなんだ。
どれも好きなんだ。
本は本だから、どれか1冊を決めろなんてできない。
全ての本を抱いて寝たい。
#09