滝谷(shui)

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5/28/2024, 6:31:18 AM

【天国と地獄】

 こんなに貴方が近いのに、手を繋ごうよの一言が、言えずに私は怯えているの。

5/26/2024, 8:35:40 AM

【降り止まない雨】

 ザーザーと騒ぐ雨音をかき消すほど、私の心臓はうるさく騒ぎまくっていた。

「雨、止みそうにないね」
 本屋の前でそう憂鬱げに呟いたのは守山君だった。
「う、うん。そうだね」
 と同じ場所で雨宿りする私は気が気ではない。

 た、たしか、同じクラスのイケメンじゃないか。
 まさか本屋で遭遇するとは思わなかった。
 ストレートの髪に高い身長。どちらかと言うとミステリアスな雰囲気は多くの女子を惹きつけた。

 最も、私は彼に恋などしてないのだが。

「城之内さんも傘を忘れたの?」
 守山君が私を見た気がした。
 こっち見るな。恥で死ぬから。
「そ、そう。通り雨だと思うから。止むの待ってるんだけど」
 ぎこちなく話して、買った本で顔を覆った。

 城之内 ハルカ。ギャルである。

 いつもバッチリメイクなのに、まさかスッピンの時に同級生に会うと思わなかったのだ。
 好きな漫画を買いに行くだけだしーと完全に油断した。
 4月から「私は超完璧な可愛い女子高生ですっ」って演じてた私。そうしないと虐められるのが怖かったから。

 なのにこのタイミングで何故ここにいる守山ぁぁあ!!
 早よ立ち去れやこのイケメン!

「城之内さん、どうしたの? 顔を隠してるけど…」

 なのに丁寧に声をかけてくる守山。黙れぃ!

「いやー別に? 何でも?」
「そう?」

 こっちは素顔隠すので必死なんだよ!
 バレたら五体投地ののち爆散ものなんだよ!
 私が爆発したらどうしてくれる!
 何も気づかず、どっかいけ!
 心の中で叫んでいると、彼の視線が外れた気がした。
 ちょっとだけ安堵……したのに。

「城之内さんは素顔も可愛いから、隠さなくてもいいと思うけど……」

 守山の呟くような一言で、脳内の私は爆散した。

 は? は?? はぁああああ?!?

「ふっざけんなよ! このイケメン野郎! 雨で頭爆発しちまえよ!」
「雨ってそんな効果あるの?」
「真面目に答えんな!」

 思わず持っていた漫画を相手に投げつけた。
 今日は晴れ。ときどき雨。
 降り止まない通り雨の、不意打ちには御用心。

5/13/2024, 10:18:48 AM

【失われた時間】

 もう少しだけ、私は幸せなんだと思える、盲目な夢を見たかった。

5/11/2024, 10:53:37 PM

【モンシロチョウ】

 あの日、サナギの殻を破らなければ、
   今も幸せな夢を見れたのだろうか。


【愛を叫ぶ】

「お父さんのバカァアアア!!!」

 と叫ぶ君を見て、僕は笑ってしまった。
 その言葉の中に、たくさんの『会いたい』が詰まっていたからだ。

 だから、退院したら、真っ先に君に会いに行く。
 僕も会いたかったと力一杯に抱きしめたいから。

5/7/2024, 8:34:30 PM

【初恋の日】

「俺、春奈が男だったら良かったと思ったよ。そしたらお互いに、傷つくことなんてなかったのにな」

 木陰に隠れていた私の耳に届いたのは、少し震えた、青木の寂しそうな声だった。

 春奈は私の親友だ。
 親友が青木に振られた。その事実を受け止めたとき、怒りとも、悲しみとも違う不思議な気持ちが渦巻いていた。
 春奈が、そんな事、と言いかけて背を向けて走っていく。ああ、きっと泣いてるんだ。
 私は春奈を追いかけるべきだ。親友だから。
 そうわかっていたのに、私は動かなかった。

「追いかけねーの?」

 木の横から、青木が顔を出した。不思議そうに私を見ながら。コイツ、いつから気づいていたのか。

「アンタが追いかけたら?」

 押し付けるように私がいうと、青木が苦笑いした。

「今、彼女をふったとこなのに?」
「女より男のが好きだなんて、嘘じゃん。この嘘つき」
「それはお前のほうだろ。早く追いかけて抱きしめてやれよ」

 ……青木に言われて、グッと黙り込む。
 そう、私も嘘つきだ。男より女が好き、と、まだ春奈に打ち明けていなかった。
 春奈だから、打ち明けられなかった。
 教えたら、私は彼女に親友以上の関係を求めたくなってしまうから。

 でも。

「初恋に正直になろうとした春奈を、初恋を嘘で隠し通したい私が触れてしまったら、汚してしまう気がして嫌なの。触りたくないし、触れないのよ」

 きっと私にしかわからない、変なプライドが邪魔してる。
 今だってーーそう、今だって。彼女が振られて、こんなに安心してしまったのに。それくらい私は汚い人なのに。

「お前が春奈にふられてくれたら、俺の恋も前に進めるんだけどな」
「意味わかんない」
「だよな」

 私たちの不器用な恋は、いつだって遠回りする。
 こんなに辛いなら初恋なんて知らなきゃ良かったと、蹴り飛ばしたくなるくらい。

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