滝谷(shui)

Open App

【降り止まない雨】

 ザーザーと騒ぐ雨音をかき消すほど、私の心臓はうるさく騒ぎまくっていた。

「雨、止みそうにないね」
 本屋の前でそう憂鬱げに呟いたのは守山君だった。
「う、うん。そうだね」
 と同じ場所で雨宿りする私は気が気ではない。

 た、たしか、同じクラスのイケメンじゃないか。
 まさか本屋で遭遇するとは思わなかった。
 ストレートの髪に高い身長。どちらかと言うとミステリアスな雰囲気は多くの女子を惹きつけた。

 最も、私は彼に恋などしてないのだが。

「城之内さんも傘を忘れたの?」
 守山君が私を見た気がした。
 こっち見るな。恥で死ぬから。
「そ、そう。通り雨だと思うから。止むの待ってるんだけど」
 ぎこちなく話して、買った本で顔を覆った。

 城之内 ハルカ。ギャルである。

 いつもバッチリメイクなのに、まさかスッピンの時に同級生に会うと思わなかったのだ。
 好きな漫画を買いに行くだけだしーと完全に油断した。
 4月から「私は超完璧な可愛い女子高生ですっ」って演じてた私。そうしないと虐められるのが怖かったから。

 なのにこのタイミングで何故ここにいる守山ぁぁあ!!
 早よ立ち去れやこのイケメン!

「城之内さん、どうしたの? 顔を隠してるけど…」

 なのに丁寧に声をかけてくる守山。黙れぃ!

「いやー別に? 何でも?」
「そう?」

 こっちは素顔隠すので必死なんだよ!
 バレたら五体投地ののち爆散ものなんだよ!
 私が爆発したらどうしてくれる!
 何も気づかず、どっかいけ!
 心の中で叫んでいると、彼の視線が外れた気がした。
 ちょっとだけ安堵……したのに。

「城之内さんは素顔も可愛いから、隠さなくてもいいと思うけど……」

 守山の呟くような一言で、脳内の私は爆散した。

 は? は?? はぁああああ?!?

「ふっざけんなよ! このイケメン野郎! 雨で頭爆発しちまえよ!」
「雨ってそんな効果あるの?」
「真面目に答えんな!」

 思わず持っていた漫画を相手に投げつけた。
 今日は晴れ。ときどき雨。
 降り止まない通り雨の、不意打ちには御用心。

5/26/2024, 8:35:40 AM