【視線の先には】(詩)
さぁさぁ!
聞いてらっしゃい 見てらっしゃい
お座敷落語の始まりだ
ぱちんと 扇子の音を鳴らせば
ここはアタシの独壇場
楽しい話を 十も百個も
語ってみせようじゃあないか
蕎麦を啜るも なんのその
そこの子供も くすりと笑い
老人からは 入れ歯も飛び出す
それが笑いの真髄よ!
ああ しかし
悲しいものかな
本日も客席は お猫様しか居やしねぇ
【私だけ】
私には特別な、私だけの物語がある。
日記帳に書いている、私の小説だ。
本当はスマホやパソコンで書くのも憧れるけど、小学生のうちは我慢なの。
でもね、いつか本になればいいなーって思ってるんだ。
本。紙をパラパラとめくっていく、私の憧れ。
もしいつか、本にできたら読んでくれる?
って聞いた時……親友が、
「楽しみにしてる」
って笑ってくれたから。
私ね、今日も小説が書けるんだ。
それから何年も経ち、私も大人となった。
まだ本格的な本にはできてないが、同人誌を作ろうと頑張れる程度の作品は作れるようになったよ。
小説って難しいのね。
表現の豊富さ、文体の確立、読みやすさの研究……。
こんなにたくさんの技術や工夫があるとは知らずに書いていた。
おかげで、何度も挫けた。
自分の小説が嫌い、って泣いた事もあった。
一文字も書けなくてやめようと思った時。見つけたのは私だけの小説と、君の「楽しみ」と言う言葉だ。
もうちょっと書いていいかな、って。
視界が熱くなったのを、今でも忘れない。
そのうちコンクールに出せる作品が完成する予定なんだ。
そしたら、君と、昔の自分に、読んでくださいと伝えるつもりなの。
だから、待っててね。
【遠い日の記憶】
「朝からパンケーキが食べられるなんて、夢みたいだ」
僕がフライパンでパンケーキをひっくり返していると、甘い香りに釣られた君がやってきた。
カーディガンを羽織りながら、隣からフライパンを眺める。
顔は幸せでにやけていた。
「そうなの?」
「うん、そうなの」
尋ねたら真似をされて返された。ご機嫌らしい。
「私さ、小さい頃は『朝ごはんはお米だ』って決められてたの。実家は農家だったしさ。兄弟も多くて甘いのが嫌い〜って子もいたから、仕方なくて」
本当は甘い朝ごはんに憧れてたのよ。
「へぇ、初耳だよ」
「ひたすら白米を炊いて食べるのよ。夏でも熱々でね」
「いいな。羨ましいや」
言葉をこぼすと、彼女は僕の顔を横からのぞいてきた。
「もしかして、パン派だった?」
「ふふ、パンもよく出たけどね」
古い記憶を辿る。僕の朝は冷たい食事から始まった。
両親は共働きだ。
僕が起きるより先に出勤する為、自力で起きて用意済みの冷たいご飯にありつくのだ。
最初はレンジで温めていたが、次第に冷たいまま口にするようになった。
ひとりぼっちの朝食なのだ。
それが昔の僕にとっての普通だった。
「家族ってさ、人によって結構違うのね」
彼女が言った。いつの間にか白いお皿を差し出している。
「かもね。子供の時はみんな似たようなものだろうと信じてたんだけどな」
ぽん、とホットケーキを乗せるとご機嫌に笑ってみせた。
「そんなものだよ。人間なんて。みんな違うのが当たり前なのに、心のどこかで『一緒であって欲しい』だなんてフィルターかけちゃう生き物なんだ」
違うのは当たり前なのにね。
と彼女は言った。
その通りだと思う。うまく言えない感情だけど。
ほかほかの朝食をテーブルに並べながら、少し考え事をしていると彼女はこうも言った。
「君はどうする?」
「何をだい?」
「これからの家族をだよ。君はどんな家族になりたい?」
そうだな、と考える。思い立つのはひとつだった。
「朝食は家族揃って食べる。そんな家族がいいかな」
「ははは、たまにパンケーキをよろしくね」
僕らはいただきますと手を合わせる。
賑やかな朝食は、ふわふわとして、温かい。
【終わりにしよう】
彼女と出会った事を、僕は運命のように思う日がある。
「やぁ、きみか」
お昼休み。
校庭の隅の木漏れ日で、友人と弁当を広げると。彼女は音もなくやってきた。
「今日は僕のお弁当食べるの?」
笑って尋ねると、ふぃっと横を向く。
「あ、これが噂の?」
「本当だ、美女じゃん」
友人も彼女を見つけると思い思いに口を開いた。
ね。美女さんでしょ。
ツンデレで小柄な所も、僕はとても気に入っている。
友人のそばをすり抜けて、彼女が僕の元に来ると足に手を置いた。
彼女の一声で、僕はにやけてしまう。
「ねぇ、そろそろ野良生活を終わらせて、僕の家に嫁がない?」
「お前は子猫と結婚する気かっ!」
友人のツッコミにどっと笑いが起こる。
彼女はと言うと、僕から卵焼きを受け取りながら、にゃあ、とそっけなく鳴いた。
【手を取り合って】
家の扉を蹴り飛ばし
やってきました港町
家出を掲げて歩くのは
親友 悪友 そして僕
寂しくなったら 手を繋げ
挫けそうなら 笑い合え
ガタンゴトンと騒ぐ隣を
どんちゃん騒ぎで歩みます
廃線の上を早3日 一心発起の反抗期
全ては僕らの 可能性を知るために
もう子供には戻れない
(余談)
元々詩人なので、久々に詩を書きました。
なんと言うか、反抗期は『親からの旅立ち』『友達との挑戦』の狭間で揺れ動く時期なのだなと思います。
そうやって、人は大人になるのかもしれません。