滝谷(shui)

Open App
7/19/2023, 2:21:10 PM

【視線の先には】(詩)

  さぁさぁ!
  聞いてらっしゃい 見てらっしゃい
  お座敷落語の始まりだ

  ぱちんと 扇子の音を鳴らせば
  ここはアタシの独壇場
  楽しい話を 十も百個も
  語ってみせようじゃあないか

  蕎麦を啜るも なんのその
  そこの子供も くすりと笑い
  老人からは 入れ歯も飛び出す
  それが笑いの真髄よ!

 
  ああ しかし 
  悲しいものかな
  本日も客席は お猫様しか居やしねぇ

7/18/2023, 8:20:46 PM

【私だけ】

 私には特別な、私だけの物語がある。

 日記帳に書いている、私の小説だ。
 本当はスマホやパソコンで書くのも憧れるけど、小学生のうちは我慢なの。
 でもね、いつか本になればいいなーって思ってるんだ。

 本。紙をパラパラとめくっていく、私の憧れ。
 もしいつか、本にできたら読んでくれる?
 って聞いた時……親友が、
「楽しみにしてる」
 って笑ってくれたから。
 私ね、今日も小説が書けるんだ。



 それから何年も経ち、私も大人となった。
 まだ本格的な本にはできてないが、同人誌を作ろうと頑張れる程度の作品は作れるようになったよ。
 小説って難しいのね。
 表現の豊富さ、文体の確立、読みやすさの研究……。
 こんなにたくさんの技術や工夫があるとは知らずに書いていた。

 おかげで、何度も挫けた。
 自分の小説が嫌い、って泣いた事もあった。

 一文字も書けなくてやめようと思った時。見つけたのは私だけの小説と、君の「楽しみ」と言う言葉だ。
 もうちょっと書いていいかな、って。
 視界が熱くなったのを、今でも忘れない。

 そのうちコンクールに出せる作品が完成する予定なんだ。
 そしたら、君と、昔の自分に、読んでくださいと伝えるつもりなの。

 だから、待っててね。

7/18/2023, 3:52:08 AM

【遠い日の記憶】

「朝からパンケーキが食べられるなんて、夢みたいだ」

 僕がフライパンでパンケーキをひっくり返していると、甘い香りに釣られた君がやってきた。
 カーディガンを羽織りながら、隣からフライパンを眺める。
 顔は幸せでにやけていた。
「そうなの?」
「うん、そうなの」
 尋ねたら真似をされて返された。ご機嫌らしい。
「私さ、小さい頃は『朝ごはんはお米だ』って決められてたの。実家は農家だったしさ。兄弟も多くて甘いのが嫌い〜って子もいたから、仕方なくて」
 本当は甘い朝ごはんに憧れてたのよ。
「へぇ、初耳だよ」
「ひたすら白米を炊いて食べるのよ。夏でも熱々でね」
「いいな。羨ましいや」
 言葉をこぼすと、彼女は僕の顔を横からのぞいてきた。
「もしかして、パン派だった?」
「ふふ、パンもよく出たけどね」

 古い記憶を辿る。僕の朝は冷たい食事から始まった。
 両親は共働きだ。
 僕が起きるより先に出勤する為、自力で起きて用意済みの冷たいご飯にありつくのだ。
 最初はレンジで温めていたが、次第に冷たいまま口にするようになった。
 ひとりぼっちの朝食なのだ。
 それが昔の僕にとっての普通だった。

「家族ってさ、人によって結構違うのね」
 彼女が言った。いつの間にか白いお皿を差し出している。
「かもね。子供の時はみんな似たようなものだろうと信じてたんだけどな」
 ぽん、とホットケーキを乗せるとご機嫌に笑ってみせた。
「そんなものだよ。人間なんて。みんな違うのが当たり前なのに、心のどこかで『一緒であって欲しい』だなんてフィルターかけちゃう生き物なんだ」
 違うのは当たり前なのにね。
 と彼女は言った。
 その通りだと思う。うまく言えない感情だけど。
 ほかほかの朝食をテーブルに並べながら、少し考え事をしていると彼女はこうも言った。
「君はどうする?」
「何をだい?」
「これからの家族をだよ。君はどんな家族になりたい?」
 そうだな、と考える。思い立つのはひとつだった。
「朝食は家族揃って食べる。そんな家族がいいかな」
「ははは、たまにパンケーキをよろしくね」

 僕らはいただきますと手を合わせる。
 賑やかな朝食は、ふわふわとして、温かい。

7/15/2023, 8:37:36 PM

【終わりにしよう】
 彼女と出会った事を、僕は運命のように思う日がある。
「やぁ、きみか」
 お昼休み。
 校庭の隅の木漏れ日で、友人と弁当を広げると。彼女は音もなくやってきた。
「今日は僕のお弁当食べるの?」
 笑って尋ねると、ふぃっと横を向く。
「あ、これが噂の?」
「本当だ、美女じゃん」
 友人も彼女を見つけると思い思いに口を開いた。

 ね。美女さんでしょ。
 ツンデレで小柄な所も、僕はとても気に入っている。

 友人のそばをすり抜けて、彼女が僕の元に来ると足に手を置いた。
 彼女の一声で、僕はにやけてしまう。
「ねぇ、そろそろ野良生活を終わらせて、僕の家に嫁がない?」
「お前は子猫と結婚する気かっ!」
 友人のツッコミにどっと笑いが起こる。
 彼女はと言うと、僕から卵焼きを受け取りながら、にゃあ、とそっけなく鳴いた。

7/14/2023, 8:20:55 PM

【手を取り合って】

   家の扉を蹴り飛ばし 
   やってきました港町
   家出を掲げて歩くのは
   親友 悪友 そして僕

   寂しくなったら 手を繋げ
   挫けそうなら  笑い合え

   ガタンゴトンと騒ぐ隣を
   どんちゃん騒ぎで歩みます

   廃線の上を早3日 一心発起の反抗期
 
   全ては僕らの 可能性を知るために
   もう子供には戻れない


(余談)
元々詩人なので、久々に詩を書きました。
なんと言うか、反抗期は『親からの旅立ち』『友達との挑戦』の狭間で揺れ動く時期なのだなと思います。
そうやって、人は大人になるのかもしれません。

Next