lily

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11/10/2024, 12:22:38 AM

僕、子供の頃の記憶ないんだ。
ごめんねと悲しそうに笑う彼を見て、私は優しく問いかけた。
「いや、別に虐待を受けてただとかそんなんじゃないよ?…もしかしたらいじめとかはあったのかもしれないけれど…」
精神的に傷ついたからなのか、肉体的に傷ついたからなのか、はたまたそのどちらでもないのか。
というかまず、その当時の記憶すらないのだから、原因も分かりはしないのだろう。
そんなことを考えていると、彼は慌てて言った。
「いや、別に生活に支障は出てないから問題は無いけどさ」
やっぱ少し、寂しいなって。
私はそのしおらしい様子があまりにも可愛らしくて、思わずくすっと笑った。
彼が拗ねたような表情をしてしまったから、余計に笑ってしまった。
笑いをおさめるために少し頭を振って、
それからもう一度彼の目を見て、優しく微笑みかけた。
『大丈夫よ』
何も確信なんてない言葉だったけれど、彼も微笑んでくれた。
「君が言ってくれるなら安心だよ」
じゃあ、またね。
と私に背を向けて歩き出す彼。
その背に心の中で問いかけた。








『どうして、貴方が傷ついてるの?』


私は、かつての彼に、
肉体的にも身体的にも傷つけられていた。
そして私を傷つけながら狂気に溺れた彼の笑みが脳裏に浮かぶ。
私は一度たりとも忘れたことなんてないのに。
私が一番、
忘れたいと思っているのに。

5/11/2024, 6:10:02 AM

※お題一切関係なしの再投稿です



『…うっは、似合わねー…』
鏡の中の自分を見て、そう思う。

白と薄い桃色のグラデーションのワンピース。
普段履かないハイヒール。
黒くて小さいバック。
可愛らしく結ばれた自分の髪。
そして、化粧。
そのどれもが自分には新鮮過ぎて、
思わず笑ってしまう。



昔から、スカートを好まなかった。
真っ白なスニーカーを履いて、
リュックサックを背負って、
梳いただけの髪。
そして、ありのままの顔。
それが普段の自分の格好だった。



「僕は、君が好きだよ」
突然、そんなことを言われた。
冗談だと思った。
それを口に出したら
「あいつ」は口を尖らせた。
「冗談じゃないよ」
『はぁ…じゃ、なんで?』
「なんでって?」
『なんで好きなんだよ?
…男って、可愛らしい子とか、綺麗な子とかが好きなんじゃねえの?』
「さぁ?僕は正直外見に興味はないからね」
『…じゃあ、なんで?』
「あいつ」は自分の目を見て、ふっと微笑んで言った。
「そういうところ」



「あいつ」は可愛らしい子とか、綺麗な子が好きって訳じゃあないらしいけど、
わざと、可愛らしい服を買った。
わざと、色々と調べて、化粧をした。
わざと、「女性らしい」姿で行こうと思った。
「あいつ」をからかってやろうと思った。
「あいつ」が自分をなんで好きなのか、知りたいと思った。気になった。
だって、告白されるだなんて、初めてだから。
全部気になって、仕方がない。

…「彼」の目の前で『私』を使うのもいいかもしれないな。
この言葉遣いも、変えてみようか。
『あいつ、どんな反応するかな』
鏡に写った『私』を見ながら小さく笑った。

似合わなくて笑われるかもしれない。
とても可愛いと、褒めてくれるかもしれない。
今のが好きだと、言われるかもしれない。
愛想を尽かされるかもしれない。
もしかしたら、
「そういうところ」について、教えてくれるかもしれない。
…こんだけ「彼」のことを考えてしまうのも仕方がないと思う。
だって、告白されるだなんて、初めてだから。


思ったより早い時間に準備が終わってしまったから、どっかで時間でも潰そう。
そう思いながら、ドアを開ける。
優しく吹くちょっと冷たい風が全身を撫でた。
…あいつ、どんな反応するかな。
『自分』が思ったより、「あいつ」の反応を楽しみにしていることに驚きながら、
『私』は、玄関のドアを閉めた。

4/29/2024, 8:07:24 AM

貴方の世界を想い出しながら、そっと現実から離れる。
貴方の創り上げたものは全て美しくて、それでいて儚い。いや、儚いからこそ美しいのだろうか?
大雑把なところから細かいとこまで、全てが貴方らしい。
想うだけで、こんなにも貴方を感じれるのに、なんで、本物の貴方は何処にも居ないのだろうか?

私が持っている貴方の世界は、
ただの記憶だけ。
全て、貴方の家族に奪われてしまった。
私が貴方の作品を盗む泥棒にでも見えたのだろうか。
または私が貴方と仲が良いことを知っていて、私を毛嫌いしていたのだろうか。
…多分、どっちもだろう。
「私達の息子を奪いやがって」
このアバズレ!
…貴方が、もし生きていたなら、
この台詞を聞いて、どう思うだろう?
きっと、諦めたように笑うだろう。
…『貴方』がまだ生きているときに、息子扱いなんて、
1度もしていなかった癖に。
ずっと傷つけてばっかりだった癖に。
挙句の果てに、私から彼の世界を全て奪っておいて、
そんなこと、言わないでよ。

音のしない雫が頬を伝う。
…これでは、貴方の世界が汚れてしまう。
溢れ出る嗚咽を他人事のように聞きながら、クッションに顔をうずめた。

突然、ガタン、という音がした。
その刹那、ゆりの花の匂いがした。
びっくりして、思わず音のした方に顔を向ける。
そこには、
1輪のゆりの花が横倒れになっていた。
ぐしゃぐしゃの顔のまま、立ち上がって花をそっと持ち上げる。
…造花だ、これ。
一体何故…?

………
『僕は、君を愛しているよ。
でも、それと同じくらい…』
この花を、好いているんだ
………

ようやく、貴方を見つけれた気がして、
私の顔は、もっとぐしゃぐしゃになってしまった。

4/14/2024, 1:33:27 PM

あっはっはっ!
気まぐれな神様は、愉快に笑った。
もう動かない男を胸に抱き、泣きながら必死になにかを願う女の前に姿を現して。
だが、女は泣きすぎて視界がよく見えないのだろう。
願うことに必死で、笑い声も耳に届かなかったのだろう。
そんな愉快な神様に気づくことなく、また、その願いを思いのままに叫ぶ。
叫びすぎて、女の口から血が流れてきたとき、
神様はゆっくりと女の前に屈んで、そっと涙を拭った。
ようやく"神様"に気づいた女は目を見開いた。
だが、涙だけは止まらなかった。
『僕はねぇ、バッドエンドが好きなんだよ』
それも、こういうバッドエンド、ね。
女は止まらない涙を無理やり拭い、その目の前の"誰か"を訝しげに見る。
『でもね、』
『ハッピーエンドも、同じくらいに、好きなんだ』
女は目の前にいる者の正体に気づいた。
それも、疑うことなく、受け入れた。
『正直言って、これは、僕も予想してなかった"バッドエンド"なのさ』
だから、特別にこの結末、塗り替えてあげる。
なにをいっているのか、わからなかった。
でも、もし、そんなことが可能なら…

女が願ったものは、例え神でなくともできることだった。
やっぱりその男を生き返らせて欲しいとか?
いーや、こんなことが起こらないように過去を巻き戻してあげようか?と悩む神様の前で、女は願いを言う。
それも、最初とは違う願いを。


「私も、この人と共に死にたい」
殺して欲しいと、女は願った。
それはとても枯れていて、普通の人なら聞き取れないような声だったが、神様にはきちんと届いたらしい。
神様は驚くこともせず、悪戯げに笑って問う。
『それはなぜ?』
「…だって、大切な者の死を今現在感じて、
ずっと、心の底から愛しているこの人の冷たさを感じて、生きていくのが、怖くなったの」
「…例え時間が巻き戻ったとしても、大切な人を失うのは、もう、耐えられない」
だったら、この人と共に死に、死後の世界なんてところで、幸せに過ごしたい。

それを聞いた神様はふっと男に目をやって、また悪戯げに笑った。
『ふふふ、わかった。いいよ』
その願い、聞き届けた。









幸せそうに眠る女と少しばかり悲しそうで、でも幸せそうに笑う男の冷たさを感じて、神様はひとり呟く。
『こういう結果も悪くないね』

これがハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、
決めるのは、一体誰だろうね?
気まぐれな神様は愉快にわらった。

4/6/2024, 1:39:57 PM

最初君を見たとき、
僕はその、
美しくて、強い光を宿していて、
少し茶色みがかかったような、
その目に惹かれた。

「あなたの目は新月のようね」
そう言われて、戸惑いよりも先に、
君にそう言われたことが、
君の目の中に、
僕の目が、
顔が、
僕自身が映っていることに、言葉では表すことの出来ない感情が込み上げてきた。

君の目を見つめると、
なんだかとっても暖かい気持ちになれる。



最初あなたを見たとき、
私はその、
美しくて、優しげな光を宿していて、
一切の色も混じっていない、
その目に惹かれた。

『あなたの目は新月のようね』
ようやく目を合わせてくれたのね。
そう言おうと思っていたはずなのに、
全く別の、
でも心から思っていた本音が、溢れ出た。
変な風に思われてしまうかしらと思うより先に、
あなたの目が、
私の言葉で、
私の目で、
きらきらと輝きはじめるのを見て、
嗚呼、今までにないほど美しい月がみえたわ。
そう、思った。

あなたの目を見つめると、
なんだかとっても優しい気持ちになれる。

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