彼は凄い人だ。
運動も勉強もできて、
愛想も良くて、
みんな彼のことが好きだし、
みんなが彼を信頼している。
彼もそれに応えるように、
積極的にみんなに声をかけて、
リーダーとして、みんなをまとめていた。
彼は凄い人だ。
私なんかじゃ到底及ばなくて、
話したことがないわけじゃないし、
関わったことがない訳でもないけれど、
遠い人だな、と彼の広い背中を見ながら、そう思う。
彼女は不思議な人だ。
控えめな性格をしているのか、
静かな環境を好んでいるのか、
いつも1人でいるし、あまり喋らない。
でも、とても優しくて、
周りに気を配りすぎて疲れ果てていた僕に、
大丈夫かと、気にかけてくれた。
それだけじゃなくて、
他の誰かが困っているとき
(僕が気づかなかったときに)彼女はできる限り手伝っている。
彼女は僕らの様子を見て、そっと支えてくれる。
みんなはそんな彼女のことを信頼している。
彼女は凄い人だ。
いつも周りにすがって、
ひとりじゃ生きていけない僕とは違って。
遠い人だな、と彼女のいつもの僕らを見守る暖かな視線を感じながら、そう思う。
※前垢で投稿したものをテーマに合うように少し変えたものです
『おはよう』と言えば
「おはよう」と返してくれる家族。
『この前さ〜』と話せば
ふざけながらもちゃんと聞いてくれる友達。
『好き』と言えば
「愛してる」と返してくれる恋人。
私は恵まれていると思う。
物凄く、幸せなんだと思う。
家族も、友達も、恋人も、
とても素敵で、大好きな人達だ。
でも私は知っている。
これが、全て、
『夢』だということを。
毎朝起きてまず感じることは、「寂しさ」だった。
あの大切な人達はいないのだという虚無感。
そして、じわじわとやってくる絶望感。
このままずっと寝ることが出来ればいいのにと思う。
いつからだったかもう覚えていない。
私がこんな残酷な世界で生きることが嫌になるくらい幸せな夢を見ることは。
でも私は、この夢を嫌いにはなれなかった。
だって、愛している人達がいるのだから。
多分、今日もまた同じ夢を見るのだろう。
そしてまた、幸福感を味わうのだろう。
そしてまた、絶望を味わうのだろう。
辛くて痛くて悲しくて仕方がないけれど、
そんな現実から逃げたくて、
早く夢の中に行きたくて、
私は、瞳を閉じた。
僕、子供の頃の記憶ないんだ。
ごめんねと悲しそうに笑う彼を見て、私は優しく問いかけた。
「いや、別に虐待を受けてただとかそんなんじゃないよ?…もしかしたらいじめとかはあったのかもしれないけれど…」
精神的に傷ついたからなのか、肉体的に傷ついたからなのか、はたまたそのどちらでもないのか。
というかまず、その当時の記憶すらないのだから、原因も分かりはしないのだろう。
そんなことを考えていると、彼は慌てて言った。
「いや、別に生活に支障は出てないから問題は無いけどさ」
やっぱ少し、寂しいなって。
私はそのしおらしい様子があまりにも可愛らしくて、思わずくすっと笑った。
彼が拗ねたような表情をしてしまったから、余計に笑ってしまった。
笑いをおさめるために少し頭を振って、
それからもう一度彼の目を見て、優しく微笑みかけた。
『大丈夫よ』
何も確信なんてない言葉だったけれど、彼も微笑んでくれた。
「君が言ってくれるなら安心だよ」
じゃあ、またね。
と私に背を向けて歩き出す彼。
その背に心の中で問いかけた。
『どうして、貴方が傷ついてるの?』
私は、かつての彼に、
肉体的にも身体的にも傷つけられていた。
そして私を傷つけながら狂気に溺れた彼の笑みが脳裏に浮かぶ。
私は一度たりとも忘れたことなんてないのに。
私が一番、
忘れたいと思っているのに。
※お題一切関係なしの再投稿です
『…うっは、似合わねー…』
鏡の中の自分を見て、そう思う。
白と薄い桃色のグラデーションのワンピース。
普段履かないハイヒール。
黒くて小さいバック。
可愛らしく結ばれた自分の髪。
そして、化粧。
そのどれもが自分には新鮮過ぎて、
思わず笑ってしまう。
昔から、スカートを好まなかった。
真っ白なスニーカーを履いて、
リュックサックを背負って、
梳いただけの髪。
そして、ありのままの顔。
それが普段の自分の格好だった。
「僕は、君が好きだよ」
突然、そんなことを言われた。
冗談だと思った。
それを口に出したら
「あいつ」は口を尖らせた。
「冗談じゃないよ」
『はぁ…じゃ、なんで?』
「なんでって?」
『なんで好きなんだよ?
…男って、可愛らしい子とか、綺麗な子とかが好きなんじゃねえの?』
「さぁ?僕は正直外見に興味はないからね」
『…じゃあ、なんで?』
「あいつ」は自分の目を見て、ふっと微笑んで言った。
「そういうところ」
「あいつ」は可愛らしい子とか、綺麗な子が好きって訳じゃあないらしいけど、
わざと、可愛らしい服を買った。
わざと、色々と調べて、化粧をした。
わざと、「女性らしい」姿で行こうと思った。
「あいつ」をからかってやろうと思った。
「あいつ」が自分をなんで好きなのか、知りたいと思った。気になった。
だって、告白されるだなんて、初めてだから。
全部気になって、仕方がない。
…「彼」の目の前で『私』を使うのもいいかもしれないな。
この言葉遣いも、変えてみようか。
『あいつ、どんな反応するかな』
鏡に写った『私』を見ながら小さく笑った。
似合わなくて笑われるかもしれない。
とても可愛いと、褒めてくれるかもしれない。
今のが好きだと、言われるかもしれない。
愛想を尽かされるかもしれない。
もしかしたら、
「そういうところ」について、教えてくれるかもしれない。
…こんだけ「彼」のことを考えてしまうのも仕方がないと思う。
だって、告白されるだなんて、初めてだから。
思ったより早い時間に準備が終わってしまったから、どっかで時間でも潰そう。
そう思いながら、ドアを開ける。
優しく吹くちょっと冷たい風が全身を撫でた。
…あいつ、どんな反応するかな。
『自分』が思ったより、「あいつ」の反応を楽しみにしていることに驚きながら、
『私』は、玄関のドアを閉めた。
貴方の世界を想い出しながら、そっと現実から離れる。
貴方の創り上げたものは全て美しくて、それでいて儚い。いや、儚いからこそ美しいのだろうか?
大雑把なところから細かいとこまで、全てが貴方らしい。
想うだけで、こんなにも貴方を感じれるのに、なんで、本物の貴方は何処にも居ないのだろうか?
私が持っている貴方の世界は、
ただの記憶だけ。
全て、貴方の家族に奪われてしまった。
私が貴方の作品を盗む泥棒にでも見えたのだろうか。
または私が貴方と仲が良いことを知っていて、私を毛嫌いしていたのだろうか。
…多分、どっちもだろう。
「私達の息子を奪いやがって」
このアバズレ!
…貴方が、もし生きていたなら、
この台詞を聞いて、どう思うだろう?
きっと、諦めたように笑うだろう。
…『貴方』がまだ生きているときに、息子扱いなんて、
1度もしていなかった癖に。
ずっと傷つけてばっかりだった癖に。
挙句の果てに、私から彼の世界を全て奪っておいて、
そんなこと、言わないでよ。
音のしない雫が頬を伝う。
…これでは、貴方の世界が汚れてしまう。
溢れ出る嗚咽を他人事のように聞きながら、クッションに顔をうずめた。
突然、ガタン、という音がした。
その刹那、ゆりの花の匂いがした。
びっくりして、思わず音のした方に顔を向ける。
そこには、
1輪のゆりの花が横倒れになっていた。
ぐしゃぐしゃの顔のまま、立ち上がって花をそっと持ち上げる。
…造花だ、これ。
一体何故…?
………
『僕は、君を愛しているよ。
でも、それと同じくらい…』
この花を、好いているんだ
………
ようやく、貴方を見つけれた気がして、
私の顔は、もっとぐしゃぐしゃになってしまった。