lily

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僕、子供の頃の記憶ないんだ。
ごめんねと悲しそうに笑う彼を見て、私は優しく問いかけた。
「いや、別に虐待を受けてただとかそんなんじゃないよ?…もしかしたらいじめとかはあったのかもしれないけれど…」
精神的に傷ついたからなのか、肉体的に傷ついたからなのか、はたまたそのどちらでもないのか。
というかまず、その当時の記憶すらないのだから、原因も分かりはしないのだろう。
そんなことを考えていると、彼は慌てて言った。
「いや、別に生活に支障は出てないから問題は無いけどさ」
やっぱ少し、寂しいなって。
私はそのしおらしい様子があまりにも可愛らしくて、思わずくすっと笑った。
彼が拗ねたような表情をしてしまったから、余計に笑ってしまった。
笑いをおさめるために少し頭を振って、
それからもう一度彼の目を見て、優しく微笑みかけた。
『大丈夫よ』
何も確信なんてない言葉だったけれど、彼も微笑んでくれた。
「君が言ってくれるなら安心だよ」
じゃあ、またね。
と私に背を向けて歩き出す彼。
その背に心の中で問いかけた。








『どうして、貴方が傷ついてるの?』


私は、かつての彼に、
肉体的にも身体的にも傷つけられていた。
そして私を傷つけながら狂気に溺れた彼の笑みが脳裏に浮かぶ。
私は一度たりとも忘れたことなんてないのに。
私が一番、
忘れたいと思っているのに。

11/10/2024, 12:22:38 AM