K作

Open App
4/24/2023, 1:47:10 PM

題 ルール

本が読めなくなりました。
嘘だとお思いになるでしょう、そんな馬鹿なことあるはずないと思うでしょう。でも本当なんです。
高校二年生になった時分、私は突然、本が読めなくなりました。目を失った訳でも、偶然、両目が同時に麦粒腫(モノモライ)になったわけでもありません。
⋯⋯ いえ、日本語は理解出来るのです、例えば、「平成」と書かれていれば、それは年号だと分かるのです。しかし、「平成26年10月7日、太郎は東の山へと向かった。古より残されしモノノケを倒し、世界に平和を取り戻すためである」と書かれると、途端に理解できなくなるのです。つまりは脳がバカになっていました。
それというのも神経衰弱によるものです。新たなクラスとなって、私は、新たな友人たちを信用出来なかったのです。仕方の無いことでした。けれど私には、それが、冤罪にもかかわらず与えられた、天からの罰のように思えたのです。
ご飯が食べられなくなりました。
人間不信は、私の望とはウラハラに、深い所まで来
ていたのです。しかし世間というものは、世間の敵を嫌います。私は一所懸命、敵ではないと、笑って、笑って、笑っていました(それが世間のルールだからです)。初夏に差し掛かったのをいいことに、お弁当を食べられないのを、「夏バテのせいよ」と、友人(本当に?)に笑っていました。
おそらく信頼していた家族にも、惨めな私を知られたくなくて、寂しさを隠していました。学校以外の時間は、ほとんどを涙とともに過ごしました。イジメられた訳でも、暴力に会った訳でも、何も無いのに、寂しくて、部屋で独り泣いていました。
しかし母というものは存外偉大でして、私の秘密などアッサリ見抜くのです。夏バテという言い訳は、母には通用しませんでした。ご飯を食べられない以外にも、私の異常を何かしら感じ取っていたのでしょう。
それでも私は、意地を張って話そうとしませんでした(恥ずかしい話ですが、私は、自分でナントカしなければと思い込んでいたのです、そんなはずは無いのに)。しかし母は、無理やりにでも私に口を割らせるようでした。何度も問いただされる内に、私はついに、涙とか嗚咽とかとともに、苦しみを吐き出したのです。
母は、学校を休んでもいい、と言ってくれました。けれど私には、母の本心を見抜けないはずがなく、それも少しだけ相まって、「1度休んだら、きっと元には戻れないから」と、今まで通り、学校に行くことにしました。私はそういう、変にプライドが高くて、真面目で、面倒臭いニンゲンなのです。
結局のところ、母に話したところで、現状は何も変わりませんでした。学校ではいつも、他人を信じられず、毎日毎日、友人(本当ではない)と過ごさなければならない休み時間が億劫で、早く終われと願っていました。そういう状況が、卒業まで続きました。
しかし、もしあの時、母が気づいてくれなかったら、私はおそらく、世間の言うところの、社会的脱落者となっていたのでしょう。今思えば、世間で生きることを諦めなくて良かったと思えるのです。
卒業してから半年以上経って、私はようやく、やっと、200ページの新書を読み切るまでになりました。読み終わると同時に、涙が出ました。
私は、本が読めるようになりました。



これは、私の経験をほとんどそのまま書いたものです。
本が読めなくなる、ご飯が食べられなくなる。日常の当たり前が、少しずつ欠けていって、やがて何もできなくなる。そして、友人も家族もいるのに、私はひとりぼっちなのだと盛大な勘違いをする。そんな勘違いをしたまま、自分が自分を深いところまで沈めていくんです。
歯磨きが出来ない人、お風呂に入れない人、電車に乗れない人。
どうか、世間が当たり前と決めつけていることをできない人がいたとしても、笑わないであげてください。

4/16/2023, 10:09:45 AM

題 届カヌ想ヰ

雨ニモマケタ
風ニモマケタ
雪ニハカッタガ夏ノ暑サニハマケタ
ソウイウ脆弱ナカラダヲモチ
欲ハ溢レ
社会ヲ恨ミ
シカシ静カニワラッテヰル

一日ニカフエイン四杯ト
水ト二錠ノ眠剤ヲ煽リ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レ
他者カラドノヨウニ見ラレテイルカ
忘レズニ生キテヰル

私ヲデクノボートヨンダ者ヲ
ケシテ忘レズ
人ヲ恨ミ
人類ヲ恨ミ
スレチガッタ人デサエ
殺シテミタイト思ッテミル

隣デ私ヲ笑ウ貴様ハ
殺意ヲ抱カレテイルナド
微塵モ思ワナイノダロウ
ロクデモナイ生活ニ
生キテイルコトサエ恨ンデミル

東ニ暴力ガアレバ
行ッテ刃ヲフリマワシ
西ニ宗教ガアレバ
行ッテ十字架ニカケテヤリ
南ニ陰口ガアレバ
行ッテソノ口ニコンクリートヲツメテヤリ
北ニ騙シガアレバ
行ッテソノ頭ヲミキサーニカケテヤル

ソウイウ想像ヲシテ
静カニアザケ笑ッテヰル





4/15/2023, 6:50:46 AM

題 神様へ

新年リポート!

神様にどんなお願いをしましたか?

女子高生
エーと、今年もいい年になりますようにって言うのと、あと、私は今年受験があるので、志望校に受かりますように、ってお願いしました。マァ、自分の勉強次第なんですけど、それでも神頼みってしたくなっちゃいますよね、えへへ。さっき絵馬も書いてきたんです、あと合格祈願の御守りも買いました。御利益あるといいな。

神様にどんなお願いをしましたか?

50代社会人男性
最近、いい事ないんですよ⋯⋯。 会社で、部下が結構マズいことをしでかして、それの尻拭いをさせられるし、車を運転してたら後ろからぶつけられるし、妻や娘からも疎ましがられるし⋯⋯。 今年は何かいい事ありますようにって神様にお願いしたんですけど、届いてますかねぇ。もしかしたら、神様は俺のことなんて見てないんじゃないですかね、あはは。

神様にどんなお願いをしましたか?

5歳男の子
仮面ライダーになりたいっておねがいしました!お母さんに、変身ベルト買ってっていったけど、買ってくれなかったから、神様にくださいっておねがいしました!あと、あと、電車の運転手とサッカー選手とユーチューバーにもなりたいっておねがいしました!

神様にどんなお願いをしましたか?

神様
エ、それ俺に聞きます?⋯⋯ マー全人類幸せになっちゃえばいいんじゃないですかネ、ハッハッハ。⋯⋯ エー真剣にって。そもそも俺には、自分や誰かのオネガイを叶える力なんてないんですよ。俺の仕事は、ここ(天界の御殿にある雲の椅子)で寝っ転がって、下々のニンゲンどもを見てるだけなんですカラ。ホントもう、ヤんなっちゃいますよ、この時期は。下界の俺の別荘にズカズカ入ってきやがって。⋯⋯ ニンゲンの願いってのは、一応は俺に届くんですよ、叶えられないけどね。だから色んなところから念が届いて、頭パンクしそう⋯⋯。
エ、このニンゲンたち?⋯⋯ アーなんかいた気がするわ。受験なんて、俺にお願いしたってどうしようもないでしょ、この女の子、大して勉強してないくせに。そもそも受験の概念が理解不能なんだよね。ニンゲンってなんで優劣つけたがるわけ、争いの元でしょ。⋯⋯ オマモリ?⋯⋯ アー御守りね、ハイハイ。あれでしょ、ニンゲンが作ってる、なんか、凄そうなヤツ。可哀想にね、あんな紙と布袋のためにお金払わされて、ニンゲンの金儲けに使われて。
こっちの男は⋯⋯ アー、うわァって思ったニンゲンだ。こいつ、部下を助けてやった的なこと言ってるけど、実際、ただ部下の教育を怠っただけだからね。何も分からない部下が、何とかしようとして失敗しただけ。事故ったのも、仕事のストレスで⋯⋯ なんだっけ、最近流行(はや)りの、煽り運転?してただけだからね。そんなんだから家族から嫌われるんじゃないですかネ。このニンゲンには安心して欲しいなァ、俺はいつも見てるからネ、ハッハッハ。
この子供は⋯⋯ 強欲だなァ、マいいんじゃないですかネ、夢があって。ところで、ユーチューバーって何?最近、そんな念が届くことが増えたんだけど⋯⋯。 ⋯⋯ ヘェ、ユーチューブ⋯⋯ ?ニンゲンはよく分からんものを作るんだな。
俺のインタビューなんて、意味あった?ニンゲンに知られたらザンネンに思われるだけデショ。⋯⋯ マ、そうだよな、結局のところ、ニンゲンは俺のことなんて信じてないよな。信じてないくせに、こういう時だけ俺を頼るんだよな⋯⋯ 。アーア、ニンゲンに転職しようかなァ⋯⋯ ハッハッハ。


4/12/2023, 12:25:09 PM

題 言葉にできない

⋯⋯ ハイ、コンバンハ。⋯⋯ ェ、補導対象⋯⋯ もう日を跨ぎましたか。ちょうど良かった、お巡りさん、俺に手錠をかけてください。⋯⋯ ハイ、俺は、悪いことをしました、⋯⋯ 今日あったことを話すには、過去とか、理由とか、すごく複雑で、ちょっと長くなりそうなのですが⋯⋯ 分かりました、ありがとうございます。
⋯⋯ 俺が2歳の時、父さんが事故にあって死んだそうです。マそれはどうでもいいんですけど、それ以来、母さんはひとりで俺を育ててくれました。
それはすごくありがたいんです、でも1年くらい前から、母さんは仕事以外で頻繁に家を空けるようになって、多分、男を作ってるんだって感づきました。それで、この前、ついにマンションの前で、シャレこんだ母さんとピシッとしたスーツを着た男が話してるのを、窓から見てしまって。恥ずかしいんですけど、俺泣いちゃって。急に母さんが気持ち悪くなって、⋯⋯ 父さんのこと、捨てるのかって、思ってしまって。
それで、最近俺、母さんを避けるようになりました。
⋯⋯ なんか、もう、全部ヤになって、今日、どうしても学校行きたくなくて、初めてサボりました。適当にフラフラして、時々泣きそうになったら道端に座って休憩して、いつも通りの時間に帰ると、珍しく母さんがいて。学校から連絡があって仕事を切り上げてきたって言ってました。母さん、すごく怒ってて⋯⋯ 。
俺、なんかすごく悲しくなって⋯⋯ 床が崩れていくような感覚がして、こんなの初めてだったんです⋯⋯ 。いや、怒られたのがショックだったんじゃなくて⋯⋯ 先生に言われないと、俺のこと気にしないんだなって⋯⋯ すんません、うじうじしてて。
⋯⋯ 今は、こうやって、ショックだったって、言葉にできてるけど、母さんの目の前だと、なんか、うまく話せなくて、俺、混乱して、
「お前のせいだろ、お前のせいでこうなってんだろ。なんで産んだんだよ。」
って、怒鳴ってしまって。
その場にいたくなくて、逃げてきました。
⋯⋯ 俺、産まれてきた意味がわかりません。嫌なことばっかりだ⋯⋯ 。すんません、泣いてばっかで。
でも、俺、なんであんなこと言っちゃったんだろうって、それで、ずっと辛くて⋯⋯。
思ってることが全部伝わればいいのに⋯⋯ 。
これが、俺の罪です。捕まったら楽になるかなって、思って⋯⋯ 。
⋯⋯ ダメですか、そうですよね。
⋯⋯ ァ、送ってくれるんですか、すんません。俺、パトカー乗るのって初めてです。

⋯⋯ ェ、母さん。





4/11/2023, 1:13:07 PM

題 春爛漫

ヤァ、グーテンアーベント⋯⋯。 今夜は寒いな、こちらにおいで、さっき火を炊いたばかりだから、魚の下処理を手伝ってくれ。⋯⋯ ヒトに会うのは久しぶりだ。⋯⋯ 君は、どこから来たんだい⋯⋯ ホォ、フランセーズ⋯⋯ フランクライヒか⋯⋯。 あそこは、遺物が多く残っているから、楽しかっただろう。⋯⋯ 俺は、エッフエル塔が好きだったな⋯⋯ 高い塔があっただろう、⋯⋯ 名前を知らなかったのか、馬鹿め、本を読め。遺物が多いところには、図書館という、本が多く保存されていた場所があるんだ。運が良ければ、まだ読める本が見つかる。俺は今まで、様々な場所を旅して、いくつか図書館を見つけたが、⋯⋯ それでも、世界が滅亡した理由だけは見つけられなかったな。
⋯⋯ 俺か、俺は、生まれた時から親父と歩き回ってたから、故郷はない。けど、親父はドイチュラントの辺りの人だと話してたから、俺にもその血が流れてるはずだ。
君はこれからどこへ⋯⋯ 東か。⋯⋯ 俺は、もう旅は辞めることにしたんだ。ここから西に行ったところに、小さな集落ができているらしい。そこに定住しようと思う。⋯⋯ 何故って、滅亡の秘密を知ったからさ、どうりで、図書館では見つけられないはずだと思ったよ。
⋯⋯ 知りたいのか。いいのか、お前の旅の目的を奪うことになるぞ。⋯⋯ そうか、分かった。
俺は、47回太陽を巻き戻した日、大陸の東の果てにたどり着いた。その地の名はシナと言った。とても美しいところだった⋯⋯。 崩壊した朱い建築には、覆い被さるように大量のアサガオと言う青や、紫の花が伝い、川にはとめどなくスイレンという宝石のような花が流れ、そして至るところにサクラやウメ、モモというピンクや赤の花の木が咲き乱れていた。そして、その地をさらに美しくしていたのは、花の間を舞う、たくさんの可憐なる小さな生き物だった。ホヮーポーという、リンゴほどの高さの、玉のように可愛らしい人の形をした精霊だった。
⋯⋯ 俺は、今まで生きてきた理由を知った。この地を見つけるために、生きてきたのだと、本気で思った。それほどに神秘的なところだった。この荒廃した世界で、唯一生き残った地だと思った。
奥地まで進んで行くと、一層花の甘い香りが強くなった。それを辿って行くと、おそらく城跡であろうところに、ひとりの翁が佇んでいた。首からロウバイという黄色い花の木を生やした、枯れ木のような翁だった。あの甘い匂いは、翁のロウバイから香っていた。
⋯⋯ 翁はいろいろな話を聞かしてくれた。その地の名がシナということや、目に映る花々の名前や、小さな可愛らしい精霊の名を教えてくれたのも、その翁だった。そして、世界滅亡の背景も、枯れ木に花を咲かせたような顔で語ってくれた⋯⋯。
翁の話によれば、シナはかつてより花の絶えない美しい国だったと言う。シナの人々はカジン(華人)と呼ばれ、カジンは、かつて天界を追放された百花仙子(ひゃっかせんし)という花神と99人の花の精の子孫であるとされ、男も女も、シダレザクラのようにしっとりと美しい者ばかりであったそうだ。極東の浄土と呼ばれることもあったらしい。
⋯⋯ シナは暴力を持たぬ国だった。ただただ花を愛し、水を恵み、国を愛するだけだった。⋯⋯ “シナを手折ること勿れ”。シナを攻めてはいけないという戒めの言葉だ。彼ノ国は花神・百花仙子の恩恵を受けているため、土地や民に害をなせば、花神の天罰が下ると言われていた。そのためシナでは、たとえ国民であろうと、花の木を手折るのは重罪だったそうだ。
例えば桜の枝を手折ってみれば、枝はどこまでも伸び、罪人を追いかけて、最後には絞首にかけて桜の枝に括られる。カジン達はそれすらも風流とみなし、花見改め首見(シュミ)をして酒を飲み団子をかじり、歌を歌って宴をしたそうだ。花見は一年中できるが首見はそうできるものでは無い、と翁が嬉しそうに話していた。⋯⋯ 彼らは神の子だから、人とは少しズレているのだろう。
他にもカジンを殺した者は、カジンから溢れ出す花がくっついて離れず、耳の穴や鼻の穴に入り込んで、窒息して死ぬ。これをテンニョサンカ(天女散華)というらしい。それだけ聞くと汚らしく思うだろうが、その実情は、ヒトから花が生えているように見え、風流だそうだ。
だからシナを攻めてはならない⋯⋯。
しかし⋯⋯ しかし遠い西の帝国・ドゥーグゥオは、そのことを知ってか知らずか、花の国を手に入れるため攻めてきた。極東には花の絶えぬ炯々(けいけい)たる国があると聞いて、その生命の神秘を求めたからだ。
ドゥーグゥオだけでは無い、他の多くの国がシナを欲していた。だが周辺国は花神の天罰を知っているので、花園を汚すことはしなかった。
ドゥーグゥオの初攻めは天女散華や花神の天罰により撃退された。それでも多大な被害が出たが⋯⋯。 侵攻に失敗したと知らせを受けたドゥーグゥオの王は怒り、次は火攻めを命令した。これにはシナは太刀打ちできなかった。国中が炎に包まれ、民は黒焦げ、植物は塵と化した。
百花仙子は悲しみに染まりながらも、敵の大将に直談判に行った、「どうかやめてください」と、その人とは思えぬ麗しい顔を涙に濡らして。しかし大将は花神の言葉には耳も貸さず、シナの神が自ら殺されに来たとして、花神の首をはねた。
花神はこの世のものとは思えないほどの美しい花を吹き出しながら地に手折れた。それは留まることを知らず、花は吹き出し続け、世界中の罪人に天罰を下した。生き残ったのは、ドゥーグゥオの兵士から生き逃れた少数のカジンと、罪を犯したことの無い世界中の小さな子供だけだった。
記録が残らないはずだ。一瞬にして世界中に春が訪れ、花が咲いたのだから。
花神を亡くしたカジン達は長い時間の中で少しずつ元気をなくし、枯れていったそうだ。翁自身も、もうじき手折れると語った。
⋯⋯ この話を聞き終わったとき、やはり俺は、この地を見つけるために、生きてきたのだと思った。俺の血が言った、極東の浄土の神に、罰を与えてもらえと⋯⋯。
俺は、翁のロウバイを、彼の首ごとサバイバルナイフで掻っ切った。薄い皮とボロボロの骨だけだから、桜を手折るよりも楽だった。吹き出た黄色い花弁は、甘い香りを漂わせながら、俺の周りを2、3回廻ってヒラと落ちた。花神がもういないからか、罪から解放されているからなのか、翁は俺に罰を与えてはくれなかった。
⋯⋯ 俺は旅の目的を失った。だから、これからは百姓でもしてのんびり生きるさ。
⋯⋯ 嘘だと思うか?⋯⋯ そうか、自分の目で確かめるのも悪くない、あそこはまさしく桃源郷だ。翁の話じゃあ、海の向こうにはワという国があるらしい、⋯⋯ 信じられないだろ、水平線の向こうにも土があるなんて⋯⋯。 マ、海を越える物も、目印も、何も無いが⋯⋯。
⋯⋯ そうか、フィールグリュック⋯⋯。




設定の時に書いたメモ(読まなくていい)

シナ(幻想国家・中国)という花の絶えない美しい国。その国の人々はカジン(華人)と呼ばれる。カジンは、かつて天界を追放された百花仙子と99人の花の精の子孫であるとされ、男も女も、花のようにしっとりと美しい者ばかりである。まさに極東の花園。
シナを手折ること勿れ。シナを攻めてはいけないという戒めの言葉である。彼ノ国は花神・百花仙子の恩恵を受けているため、土地や人民に害をなさば花神の天誅が下ると言われている。そのためシナでは、たとえ国民であろうと、花の木を手折るのは重罪である。
桜の枝を手折ってみれば、枝は伸び、罪人をどこまでも追いかけて、最後には絞首にかけて桜に括られる。カジン達はそれすらも風流とみなし、花見改め首見(シュミ)をして酒を飲み団子をかじる。花見は一年中できるが首見はそうできるものでは無いので。彼らは神の子なので人とは少しズレているのである。
カジンを殺した者は、カジンから溢れ出す花がくっついて離れず、窒息して死ぬ。これを天女散華という。
だからシナを攻めてはならぬ。
しかし西の帝国・ドゥーグゥオ(德国、ドイツ)は、そのことを知ってか知らずか、花の国を手に入れるため攻めてきた。極東には花の絶えぬ炯々たる国があると聞いて、その生命の神秘を求めたからである。
ドゥーグゥオだけでは無い、他の多くの国がシナを欲した。だが周辺国は花神の天誅を知っているので、花園を汚すことはしなかった。





Next