私は夏が嫌いだ。
ジリジリと照りつける太陽。
何もしていなくても滴り落ちてくる汗。
うるさいセミの鳴き声。
夏と言うだけで外に出て騒ぐ人々。
その全てに嫌気がさしていた。
唯一好きと言える点。
それは____。
半袖から伸びるすらっとした白い腕と私は腕を組む。
暑さで少ししっとりとしている彼女の腕の感触を確かめながら、
私は高揚した気持ちを抑え歩き出す。
貴方にとって私は沢山の友人のうちの一人。
そんなこと分かってる。
でも...、
それでも貴方のそばに居たい。
可能ならば私だけの貴方に。
お願い。
届いて...。
今は地元を離れ上京して、
目まぐるしく忙しい日々を過ごしている。
そんなある日とても懐かしい夢を見た。
子供の頃の少し儚い思い出。
その日私は友達と公園で遊んでいた。
けれど友達はお出かけの予定があるからと
途中で帰ってしまった。
家に帰っても暇なので、
もう少し一人で遊んで帰ろうとブランコでゆらゆら揺れていた。
その時1人の同い年位の少年が、
ボールを追いかけて行くのが見えた。
伸ばされた髪の毛はサラサラと揺れて、
丸いビー玉のような綺麗な瞳。
いつしか私は見蕩れてしまっていた。
ボールに追いついた少年が
ボールを抱えて振り返る。
バチッと音が鳴るかの様に目が合い、
咄嗟に顔を逸らしてしまった。
チラッと目だけで少年を見ると、
にこやかに微笑みこちらに手を振り元いた場所へ戻っていく。
高鳴る鼓動に初めて感じる感覚で、
呼吸が止まりそうになる。
あの日の景色は今も尚覚えている。
ただ、忙しさのせいで記憶の片隅に追いやられていた。
夢から覚め懐かしい感覚で胸がきゅーっとする。
さて、
今日も頑張ろう。
忙しい毎日。
仕事が終わるとすぐ家の中に入ってしまうけれど。
今日くらいは__。
そう思い空を見上げる。
そこにはキラキラと輝く無数の星。
少し顔を上げるだけでなんでもない日常も
途端に色を変える。
今日は7月7日。
腫れているため都会でも天の川がよく見える。
キラキラと輝く星に見蕩れていると、
キラッと光が横切る。
流れ星だ。
そんなに多くはないが時折見える流れ星。
目を閉じつぶやく
「なんでもない幸せな日常が、いつまでも続きますように。」
そう願いを込めて____。
暑い夏の日。
今日は補習の為学校に来ていた。
2時間の補習を終えた私は下校する準備をしていた。
友人が嬉々として話しかけてくる。
どうやら明日行われる地区の花火大会に
大好きな先輩と行く約束を取り付けたらしい。
良かったねと一言返事をすると友人は満面の笑みで頷く。
私には縁のない話だ。
花火大会やお祭りに興味がない訳では無い。
友達と行くこともあるだろう。
人を好きになるということがまだよく分からない私には
縁のない話、ということだ。
友人はまだ補習があるからと教室で別れ帰路に着く。
真夏のお昼前の屋外は燃えるような暑さだ。
今にも溶けてしまいそうな中1人歩く。
ぴとっ
冷たい何かが首にあたり反射的にびっくりして振り返る。
そこには同じクラスの男子が1人、
缶ジュースを持って意地の悪い顔で笑っていた。
なんなのかと聞くと彼もちょうど補修が終わり
帰るところなのだと言っていた。
そこから少し他愛のない話をしながら一緒に歩く。
分かれ道にたどり着き別々の道になるので別れを告げる。
ねぇっと先程よりもワントーン高くなった声が聞こえる。
何かと首を傾げると、彼は少し顔を赤らめながら、
明日の花火大会一緒に行かねぇ?
と口にした。
今まで仲良くしていたが友達としてしか意識していなかった。
そんな男子から、
頬を赤く染めてそんなことを言われてしまったら
なんとなくでも分かってしまう。
びっくりして、私もつい
あ、うん...
と返事をしてしまう。
よっしゃっと小さくガッツポーズをした彼は
んじゃまた連絡する!と手を振りかがら走って遠ざかっていく。
そんな彼を私は呆然と見えなくなるまで見つめていた。
顔が熱い。
心臓がバクバクとうるさい。
縁のない話だと少し前まで思っていたのに。
この胸の高まりは...一体...。
【恋空】